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地域貢献のためではない、あくまで「戦略」 Sansanが福岡で大規模スポーツ大会を開いたワケ

» 2025年10月03日 08時00分 公開

 8月の最終週、福岡県糸島市が2つのスポーツトーナメントで盛り上がりを見せた。1つは「Sansan KBCオーガスタゴルフトーナメント」。もう1つは、営業DXソリューションや経理DXソリューションなど働き方を変えるDXサービスを手掛けるSansanが主催し、日本で初開催となったピックルボールの「PPA TOUR ASIA Sansan FUKUOKA OPEN 2025」である。

世界ランカーの選手たちの熱戦が繰り広げられた「PPA TOUR ASIA Sansan FUKUOKA OPEN 2025」

 ピックルボールとは、テニス・バドミントン・卓球の要素を組み合わせた米国発祥のラケットスポーツだ。米国ではここ5年間でプレーヤー人口が6倍に拡大した。ビル・ゲイツ氏やイーロン・マスク氏といった著名な起業家も愛好し、投資家やスタートアップ経営者がネットワーキングの場としても活用している。

 Sansanは、ビジネスコミュニケーションの基盤を提供する企業だ。一見すると本業のビジネスとは無縁に思えるスポーツイベントに、同社は主催企業として関わった。なぜスポーツ、特に日本ではまだそれほど馴染(なじ)みのないピックルボールに力を入れたのか。なぜ福岡・糸島市で開催したのか。代表取締役社長の寺田親弘氏に聞いた。

寺田親弘(てらだ・ちかひろ)株式会社Sansan 代表取締役社長/CEO/CPO。大学卒業後、三井物産株式会社に入社。米国シリコンバレーでベンチャー企業の日本進出支援を行い、帰国後は子会社の経営管理などに従事。2007年にSansan株式会社を創業し、ビジネスデータベース「Sansan」をはじめとする「働き方を変えるDXサービス」を提供。2021年に東証一部(現・東証プライム)へ上場。2023年、私立高専「神山まるごと高等専門学校」理事長に就任

地域振興は「目的」ではなく「結果」 社長が語る真意は?

 「縁なんですよね」

 なぜピックルボールの大会を手掛けたのか寺田氏に聞くと、こんな言葉が返ってきた。その言葉には、とまどいや照れはない。

 「今回の大会もさまざまな出会いをきっかけに実現しました。ゴルフトーナメントは糸島市芥屋ゴルフ倶楽部で5年間続けてきましたが、ピックルボールはまだ立ち上がりの段階。だからこそ当社が関わる意味があると思いました」

 糸島での2つのスポーツイベントは、地域経済にも波及効果をもたらしている。近隣のホテルはほぼ満室となり、価格も高騰。駅や会場付近はタクシーも多く走り、飲食店もにぎわっていた。このような状況をもたらした場合、CSRに取り組む企業ならば「地域の経済に貢献できたことが一番の収穫です」と胸を張りそうだ。しかし寺田氏は、「地方創生を目的化するのは少し違うと思います」と強調する。

 特定地域でのスポーツ支援は、一般には地域活性化や社会貢献と結びつけられ、CSRや企業イメージ向上の一環とされることが多い。だが寺田氏は、企業としての本音をこう明かす。

 「私たちはあくまで自分たちの戦略のためにやっているだけです。結果として地域が盛り上がるのは良いことですが、地域貢献のためにというスタンスは取っていません。その方が、持続可能性もありますし、誤解も少ないと考えています」

 地域活性化や社会貢献はCSR的な活動ではなく、あくまで経営戦略に基づく取り組みでなければならないということだ。順番を誤ればビジネスとして成立せず、結果的に地域貢献もできない。むしろ、ビジネスとして堂々と関わる姿を示すことによって、自治体を始めとした周囲からの信頼を得られるのだ。

Sansanがピックルボール選手(左が畠山成冴選手、右が佐脇京選手)とスポンサー契約を締結。真ん中が寺田親弘氏

出会いがもたらす長期的な価値

 先述したようにSansanはゴルフ大会のスポンサー経験を持っていた。加えて今、新たに注力しているのがピックルボールである。このスポーツは難度がそこまで高いわけではなく、子どもから高齢者まで幅広い世代が楽しめる。加えて、企業間交流の場にもなり得るからだ。

 ピックルボールを支援したきっかけは、寺田氏が米国に出張中に「今、米国ではとにかく流行している」と現地のビジネスパートナーから聞いたことだった。「投資家やスタートアップ経営者が、ピックルボールを通じてネットワーキングしている」という話も耳にしたという。寺田氏はこう語る。

 「いずれピックルボールが日本でも広がり、企業同士がチームを組んで戦う企業対抗戦のような大会を開ければ、B2Bを主戦場とする当社にとっても大きな価値になります。単なるスポーツイベントではなく、リレーションシップ構築の新しい形になると思います」

 人と人、企業と企業をつなぎ、イノベーションを生み出していく。この視点は、Sansanが掲げる「出会いからイノベーションを生み出す」というミッションそのものに直結している。

 同社のビジネスモデルは「名刺管理」に始まり、クラウド上での出会いの可視化・活用へと進化してきた。スポーツ支援は、その延長線上にある。

 「出会いがすぐ成果につながるわけではありません。Sansanのアクション、つまり点と点がいずれ線となりつながる。5年後、10年後に『あのときのリレーションがこうつながった』ということが起こる。それこそがSansanが大切にしている価値です」

 ピックルボールの大会でも、観客と選手、企業と企業、地域と来訪者といった多層的な出会いが生まれる。そのどれもが未来のイノベーションにつながる可能性を秘めているのだ。

 「いろいろなリレーションシップの構築につながっていけば、結果としてビジネスにつながると思います」

 Sansanのスポーツへの関わりは、CSR活動や一過性のブランディングではない。同社のミッションである「出会いからイノベーションを生み出す」というコアテーマをスポーツの場に投影し、ビジネス価値へと転換する試みだ。

 「スポーツは健全にパッションを活性化できる場です。そこに僕らのブランドが寄り添えば、新しい価値を生み出せるはずです」

 企業戦略と地域、そしてカルチャーを結びつけるSansanの挑戦は、単なるスポンサーシップを超えた新しいモデルとなる可能性を秘めている。構想から1年強という短期間で国際大会の誘致へと結び付けた。同社のキーマンの奮闘を次回以降、2回にわたって追っていく。

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