株式市場において、魅力的な成長ストーリーで投資家の期待を集める銘柄が、その実態を厳しく追及される局面は過去にも繰り返されてきた。
2016年に起きた、米国の空売り投資家シトロン・リサーチ対サイバーダイン(7779)のケースはその典型的な事例である。
当時、サイバーダインは「装着型サイボーグ」という未来的なプロダクトを開発し、その成長見通しは多くの個人投資家の人気を集めていた一方、継続的な赤字といった財務面の課題も抱えていた。こうした中、同時期に公表された米調査会社シトロンリサーチの空売り推奨レポートは、サイバーダインのストーリーが実態と大幅に乖離しているという趣旨のものだった。
これを受け、サイバーダインもIRを通じて反論し、株価は一時的に持ち直す場面もあった。しかし長期的に見れば、サイバーダインの株価がかつての高値水準を回復することはなかった。
足元の株価は当時の株価2400円に対して、シトロンリサーチの提示したターゲットプライス300円をさらに下回る189円で推移している。レポートが先か、業績悪化が先かという点は見解が分かれるが、この一件が「空売りレポート」の恐ろしさを市場に知らしめたのは事実だ。
しかし、今回のデータセクションの一件がサイバーダインと異なるのは、その対応だ。株価が低迷する中、10月17日の朝方、状況は一変した。
データセクションが東急不動産と「包括的業務提携に関する覚書(MOU)」を締結したと発表したのである。
このニュースは市場に好感され、株価は急騰。一時は前日比で3割以上高い1989円まで上昇する場面も見られた。ウルフパック・レポートの公表以降、下落していた株価は、この発表を機に大幅な反発を見せた。
この提携発表は、単なる好材料としてだけでなく、空売りレポートによって生じたネガティブな印象を打ち消す内容として市場に受け止められた側面が強い。
提携相手である東急不動産は、日本を代表する不動産グループの中核企業であり、その信用力は高い。この企業との提携は、疑惑の目が向けられていたデータセクションにとって、事業の信頼性を補完する効果をもたらした。
発表されたプロジェクト内容も、市場の関心を集めるものであった。北海道石狩市に100%再生可能エネルギーで稼働する、環境配慮型の次世代AIデータセンターを共同で開発・運用するという計画である。
日本の大手企業と「国産AIインフラ」を国内に建設するという計画を発表。規制違反の疑惑に対し、再生可能エネルギー活用というESGに配慮したクリーンなイメージを醸成。そして、実態が不透明とされた海外の契約に対し、北海道石狩市という具体的な場所に物理的な資産を建設するという「実体性」──これらは、データセクションにかけられた疑惑とは対照的なものだった。
しかし、この発表で市場関係者が注目したのはその「タイミング」であった。プレスリリースによれば、この覚書の締結日は「10月8日」。これは、ウルフパック・レポートが公表された当日であったからだ。まるで疑惑の火消しを狙ったかのような発表――その巧妙なタイミングに、市場はデータセクションの意図を読み取ろうとしている。
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