一方、インナーウエア市場は様相が異なる。
ワコールホールディングスの2025年3月期連結決算は、売上高1739億円(前年同期比7.1%減)、営業利益33億円(前年は95億円の赤字)となった。不振部門の縮小により、経営の健全化を進めている段階だ。
同社のピークは2016年3月期で、売上高は2029億円、営業利益は139億円に達していた。
百貨店や総合スーパーを中心とした市場では圧倒的シェアを誇り、女性下着やランジェリー分野の“ガリバー企業”として君臨していた。しかしその後、業績は低迷。コロナ禍で販売機会が縮小したことも重なり、いまだ本格的な回復には至らず、ピークから間もなく10年を迎えようとしている。
その要因として、百貨店・総合スーパーの構造的な不振があることはもちろん、想定外の強力な競合が登場したことが大きい。
英調査会社ユーロモニターによると、2022年の国内女性下着市場で首位に立ったのは、ユニクロを展開するファストリテイリングで、そのシェアは21%。ワコールHDは19%で2位、3位にはしまむらが14%に迫っている。つまり、ユニクロやしまむらといったファストファッションによるシェア侵食が、ワコールの苦戦の直接的な要因となっているのだ。
ワコールには、女性の体型に関する膨大なデータや、シルエットを美しく見せるための高度な縫製技術が蓄積されている。普通に考えれば、品質面でユニクロやしまむらに負けるはずがない。
しかし、2010年代後半以降、体型補正を下着に頼るのではなく、ジム通いやダイエットにより整えるという価値観が浸透した。整形手術への心理的ハードルも下がり、豊胸を選ぶ人も増えた。
その結果、「下着で体型を補正し、服のシルエットを整える」というワコールが長年磨いてきた価値の魅力が、相対的に弱まりつつある。ノンワイヤーで着用感が良く、価格も手頃で見た目も良い商品を次々と投入するファストファッションが勢いを増し、ワコールは防戦一方となっているのである。
アパレルのトレンドは、誰がつくっているのか
なぜ、ファミマで「普通の服」を売ろうとしているのか 「ユニクロ並み」価格を実現できた背景Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
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