AIエージェントは適切に導入できれば、企業の競争力は大きく向上する。一方で、多くの企業が生成AIを導入しても、その効果を全社に広げられずに「PoC死」に直面しているという。
PoCとはProof of Concept、概念実証のこと。新しい技術やアイデアが実際に実現可能か、本格的に導入する前段階で検証することだ。PoC死はこの概念実証で止まり、現場での実際の成果が出るまでたどり着かず、頓挫してしまう状態を指す。田原氏はこのPoC死につながる根本的な課題を4点に整理した。
生成AIの性能を引き出すためのRAG(外部知識の取り込み)構築が不十分であることや、インプットとなるデータの前処理ができていないことが、精度の低下を招いている。AIを「優秀な新人」と見なし、業務教育(RAG構築やファインチューニング)を行っていかなくてはならない。
ChatGPTなどを導入することが目的化し、「成功の定義」が曖昧になっている。導入が、最終的にどの経営指標(例:投下資本利益率、EBITDA)を、どれだけ改善させるかという戦略的なKPIにブレークダウンされていない。
導入後の活用が個人任せとなり、メール作成や要約といった、AIエージェントが持つポテンシャルのごく一部しか生かせていない。小さな成功に満足し、全社的な定着化に至らない。
AIはリリース後もどんどん古くなっていくにも関わらず、運用・保守や、セキュリティ、入力していい情報の範囲を取り決めるなどといった、安全に使うための利用ルール、「ガードレール設計」が考慮されていない。
田原氏は、このPoC死を乗り越え、AIエージェントの活用を組織的に定着させるためには、以下の「3つのエンジン」を段階的に回していく必要があると強調した。
田原氏はまず、「全社員のリテラシー教育」が土台として必要だとした。
全社員が「メールやExcelと同じレベル」でAIを使いこなせるリテラシー教育を実施する。こうすることで、組織的にAIを活用できる土台ができる。
DX推進部や情シス部門は、この段階でAIにどの業務を、どう連携させるかといったシナリオ策定、安全利用のためのガードレール設計、導入定着ロードマップ(2〜3年計画)の策定といった、AIエージェントを「推進する役割」から「管理する役割」への転換が求められている。
こうして行ったリテラシー教育を単なる「お勉強」で終わらせないためには、実際の業務に社員が生かさなくてはならない。
そこで、社員が自分の業務に活用するAIエージェントを実際に作る「実践フェーズ」に移行する。同社は、リテラシー教育後の受講者が「これなしでは仕事ができない」レベルの業務特化型AIエージェントを作る、道場形式のプログラムを推進しているという。
最後のエンジンとして、田原氏は「AIとの協働によるビジネス変革」を提案する。目指すべきゴールは、AIが業務の「実行主体」となり、人間はAIの「監督者・教育者」となる。そしてAIが組織の暗黙知を学習・進化させ続けるフェーズだ。このフェーズに向かうためには、
上記の動きが求められる。加えて、AI活用のアイデアを共有するための社内コミュニティーをつくることも有効だという。コミュニティーの初期段階では、とにかく参加のハードルを低くし、なるべく全社員が参加できるようにすることが重要だ。
やがて1年〜1年半をかけて、こうした取り組みがROI(投資利益率)が読める段階まで洗練され、経営指標につながってくるような状態になっていることが理想だという。
最後に田原氏は、今後日本企業が生き残るためには、会社の奥底に眠る「99%の独自データ」を競争優位性に変えなくてはならないと主張する。
外部のベンダーにAIエージェントの構築を頼ることは有効な選択肢だ。しかし「このデータを、本当に外に出してよかったのか」といった事態を避けるためにも、ある程度自社でAIエージェントを作れるようになることが重要だ。
こうした外部ベンダーに依存しすぎない体制づくりが、AIエージェント時代を乗り切るための最重要課題だと結んだ。
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本記事は制作段階でChatGPT等の生成系AIサービスを利用していますが、文責は編集部に帰属します。
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