渋谷区は今後、コンタクトセンターに限らず、区役所全体の問い合わせの80%をFAQサイトやチャットbotといった、デジタル経路での解決を目指している。2025年9月時点でのデジタル対応率は53.4%だ。目標達成の鍵は、現状月5万〜6万件は発生しているという、「担当課への直通電話」をいかに減らしていくかにかかっている。
「コンタクトセンターの入電に関しては業務改革が進んでいますが、各課への直通電話の改革はこれからです。そのためにも、まずは問い合わせの電話をコンタクトセンターに集中させる取り組みからスタートしていきたいですね」(岡田氏)
現状、コンタクトセンターの通話内容は、KCS運用により日々、ナレッジを蓄積している。しかし、各課への直通電話に関しては、まだその対応ができていない。しかし、コンタクトセンターに問い合わせを集約して、対応内容をデータ化できれば、そこから各課のナレッジも蓄積していける。
「将来的には、一次受付を音声AIエージェントが担い、オペレーターは個別の判断が必要な、より複雑な相談業務に集中する体制にしたいと思っています。この明確な分業体制こそが、業務効率化と対応品質の向上を両立させ、職員と区民の双方にとってメリットをもたらすと考えています」(冨澤氏)
この分業体制は、職員の負担を軽減するメリットもあるが、それだけではない。区民にとっても、簡易な問い合わせはAIで即時解決でき、時間のかかる複雑な相談は、オペレーターによる手厚い対応が受けられるようになる、という側面がある。
この「音声AIエージェント」構想の技術的基盤となるのが、一連の業務改革を通じて蓄積されてきた膨大なナレッジだ。AIの自動応答精度は、学習データとなるナレッジの「量」と「質」に直結する。渋谷区は、まず「電話の集約」によってナレッジ蓄積のプロセスを確立し、その先にAIによる自動化という次のステップを見据えている。
渋谷区は「ちがいを ちからに 変える街。渋谷区」を基本構想に掲げている。この理念こそが、単なる効率化で終わらない同区のDXを支えている。
事実、デジタル化を推進する一方で、区民からは「機械的ではなく、親切に寄り添ってヒアリングしてくれた」といった、オペレーターの「温かみ」を評価する声も多く寄せられている。
冨澤氏が語った音声AIエージェント導入の構想と同様に、「人が介在する価値」と「AIによる自動化」の両立こそが、次の挑戦だ。冨澤氏は、基本構想に触れながら将来のビジョンをこう語る。
「われわれが進めているDX化は、あらゆるお問い合わせのツールを用意する、という多様性の尊重が前提です。基本構想に基づき、区民の皆さまが最も使いやすいお問い合わせ動線を整備し、デジタルとヒューマンタッチの双方で期待に応えていきます」
ナレッジの蓄積を徹底し、AI活用で生まれた「余力」を具体的な業務の“巻き取り”へとつなげる。属人性を排した「仕組み」の構築と、区民から寄せられる「温かみ」への評価を両立させた渋谷区の一連のプロセスは、同様の課題を抱える自治体や企業にとって、ヒントとなるだろう。
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