僧侶がお経を唱える様子をオンライン配信したり、結婚相談サービスを提供したり……。“スマートテンプル構想”を掲げ、これまでの“寺”の枠に収まらない取り組みを次々に展開する築地本願寺。
同寺は「知る」「来る」「頼る」の3ステップで築地本願寺と関わりを持つ人々を増やす方針を掲げている。前編の記事では、寺運営のIT化や、カフェの開業、合同墓の設置といった、築地本願寺のさまざまな改革を紹介。その取り組みの多くは「知る」「来る」に当てはまる施策が多かった。
参考記事:“寺離れ”にデジタルで立ち向かう 「アプリ配信」「婚活」まで手掛ける、築地本願寺の“スマートテンプル”戦略
3ステップ目の「頼る」で同寺が強化するのが、コンタクトセンターの運営だ。同寺では内製でコンタクトセンターを運営しており、多いときは1日200件の問い合わせが寄せられる。2024年度の受電件数は4万2000件を記録した。
コンタクトセンターにはどのような問い合わせが寄せられるのか。また、“寺ならでは”の運営の工夫はあるのか。築地本願寺 伝道企画部部長の安邉泰教さんに話を聞いた。
同寺では2021年、それまで外注していたコンタクトセンターを内製化した。
コンタクトセンターには現在16人が在籍。オペレーター6人、SV(スーパーバイザー)2人、僧侶2人──毎日8〜10人程度で、シフト制で運営する。僧侶も問い合わせに対応するのが、大きな特徴だ。
「仏教や浄土真宗の教えに関する問い合わせや、墓じまいの相談など、専門性の高い内容には僧侶が対応しています」
「(例えば墓を今後どうするか、終活についてなど)迷っている段階で僧侶に相談できる環境を整えています。門徒をはじめとする“太いつながり”だけでなく、『合同墓のみ申し込む』『銀座のサロンで開催されるセミナーにだけ参加する』など、これまでとは違うつながりを生み出せており、間口を広げられていると感じています」
実際にコンタクトセンターに寄せられる問い合わせ種別の内訳は、「墓、合同墓」が約50%、「法要儀式」が約25%、「会員制プログラム『築地本願寺倶楽部』に関する問い合わせ」「セミナー予約」「仏事相談」がそれぞれ約5%、「その他」10%となる(※2024年度実績)。
受電件数は年々増加。2017年度運用当初は5000件程度だったが、2024年度には4万2000件に上る。月間3000〜5000件、1日あたり100〜150件問い合わせが集まる。2025年度に入り、200件を超える日もあるそうだ。
合同墓を開始して以降、問い合わせが大きく増えているといい、安邉さんは「特に合同墓の募集や申し込み方法の変更時期によって大きく受電が増える傾向がある」と説明した。
築地本願寺のコンタクトセンターが強く意識するのが傾聴の姿勢だ。寺という特性を踏まえ、寄り添う姿勢は特に重視しているという。
実際にオペレーターは仏教や浄土真宗の基本的な教え、寺の仕組みに関する知識などを、約1カ月の研修で僧侶から直接学んでいる。傾聴のスキルだけを身に付けるのではなく、寺や教えに関する基本的な知識を学んでいることで、人々の相談や悩みに分かりやすく、丁寧に回答できる状態をめざしている。
「機械的な応対は冷たい印象を与えることもあるので、傾聴の意識に加えて話し方なども重視しています」
一件一件の問い合わせにより丁寧に回答するための仕組みとして、築地本願寺と関わりのある人々の情報をCRM(顧客管理システム)で管理している。過去の応対の記録や、これまでの築地本願寺との関わりの内容をデータとして記録することで、オペレーターは一人一人に合った応対を実現できる。
同寺のコンタクトセンターが重視する「傾聴の姿勢」は、効率化とは相反するものに思える。実際、ITツールやAIを活用し、ヒトによる応対を減らしていたり、マニュアル化を徹底していたり、効率化の取り組みを強化する企業も多い。築地本願寺が実践する傾聴重視のコンタクトセンターは、非効率な面もあるのではないか。
安邉さんは「一人一人に寄り添うことと、受電率を高め、効率的に運用すること──この両立は難しいですね」と話す。現状、一件当たりの平均通話時間は約5分程度。同寺が掲げる受電率90%という目標は達成しているものの、今後もこの数字を維持しながら、一人一人の相談に長い時間を割くことは難しいかもしれない。
業務の効率化と人々への寄り添いの姿勢──。これは寺だけでなく多くの企業が抱える問題だ。変化が激しい昨今、築地本願寺がどのようにこの問題を解決していくのか、今後の動向にも注視したい。
DXの“押し付け”がハラスメントに!? クレディセゾンのデジタル人材育成を成功に導いた「三層構造」とは
「ストーリー重要」の時代は終わった レイ・イナモト氏が語る、これからのブランド構築の最適解
ミスしたのに「定時で帰る」部下 しわ寄せに苦しむ中年に、会社がすべき対応は?
野村が捨てた「資産3億円未満」を狙え SMBC×SBIが狙う“新興富裕層”の正体Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR注目記事ランキング