FP技能士センター正会員。中央大学卒業後、フィンテックスタートアップにて金融商品取引業者の設立や事業会社向けサービス構築を手がけたのち、広告DX会社を創業。サム・アルトマン氏創立のWorld財団における日本コミュニティスペシャリストを経てX Capital株式会社へ参画。
米国株式市場を牽(けん)引してきた米NVIDIAの株価が直近で大きな調整局面を迎えている。
「AIバブル」の懸念をよそに、2025年もNVIDIAは堅調な業績を達成した。同社が発表した決算は市場予想を上回る増収増益を維持したものの、株価はその数日後に急落した。
その懸念の中心にあるのが、Googleを傘下に持つ米Alphabetによる独自半導体「TPU」(Tensor Processing Unit)の戦略的な攻勢である。市場は今、GoogleがNVIDIAキラーとなり、AI市場におけるGPU(画像処理半導体)の支配構造が終わるのではないかと戦々恐々の状態となっている。
NVIDIAの支配を揺るがす最大の要因は、皮肉にも同社が築き上げた「高すぎる収益性」にあると市場は認識している。
米国市場のセクター別の粗利相場を確認すると、NVIDIAの属する製造セクターで2割、情報通信セクターでも4割程度が関の山である。しかしNVIDIAの粗利率は直近で約73%と、非常に高い利益率のまま高止まりしていた。
この高い利益率は、NVIDIAの独自技術による同社の圧倒的な価格決定権という強みによるものだ。その一方で、主要顧客である巨大テック企業にとっては、看過できないコストとなっていた。
NVIDIAのGPU「H100」や次世代品「Blackwell」の調達価格が高騰し続ける中、これら顧客企業が「脱NVIDIA」に向けて自社半導体の開発を加速させるのは、経済合理性に基づく必然の行動とも解釈できる。
巨大テック企業の中でもGoogleの動きは特に急進的だ。同社は検索エンジンやYouTubeといった巨大な自社サービスを抱えており、外部から汎用GPUを調達し続けるよりも、自社で最適な製品を作る方が大幅にコストカットができる。
生成AIの開発競争は、膨大なデータを読み込ませてモデルを賢くする学習フェーズから、完成したモデルを使ってサービスを提供する推論フェーズへと重心を移しつつある。
モデルを賢くするための学習においては、汎用性が高く、多様なアルゴリズムに対応できるNVIDIAのGPUが圧倒的な強みを持つ。しかし、GPUはビットコインのマイニングやゲームなどにも用いることができるため、AIに最適化されたものではない。
AIが社会インフラとして定着しつつある現在、汎用的なGPUではなく、AI向けのTPUといった特化型のソリューションを用いる方が、コストパフォーマンスで有利になる。Googleが2025年に本格展開を進める第7世代TPU「Ironwood」(アイアンウッド)は、まさにこの推論需要をターゲットに設計されている。
世界的なAI活用の拡大により、一部の地域では電力不足でAIデータセンターが稼働停止するほどの状況に追い込まれている。
AIチャットはもちろん、自律的にタスクをこなすAIエージェントの活用が見込まれる現状において、NVIDIAのGPUを使い続けることはオーバースペックかつ高コストな選択肢となるのだ。GoogleはGPU効率性の急所を突き、推論市場でのTPUシェア拡大を狙っていると考えられる。
ちなみに、米Appleは自社の生成AI機能「Apple Intelligence」の基盤モデルにおいて、NVIDIAのGPUではなく、GoogleのTPUを利用したことを2024年の時点で明らかにしていた。
加えて、2025年10月にはAI新興有力企業である米Anthropicでも利用拡大が進み、11月25日には米Metaでも推論基盤の一部としてTPUの導入を検討するなど、Googleが密かに手を広げていたTPUのエコシステムは着実に広がりをみせている。
これは、NVIDIA一社への依存を回避し、調達リスクを分散したい業界全体の意向とも合致する。
直近の株価急落は、投資家がNVIDIAの「無限の成長」という幻想から覚め、現実的な競争環境を再評価し始めた証であるといえる。しかし、それは直ちにAIバブルやその崩壊を意味するのではなく、適正な競争原理が働く多極化の時代へと軟着陸していくだろう。
最先端のモデル開発では依然としてNVIDIAが王座を維持する一方、コストにシビアな大規模推論や定型業務においては、GoogleのTPUをはじめとするカスタム半導体が着実にシェアを奪う可能性がある。TPUの動向についても引き続き注目しておきたい。
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