これは産経新聞の報道も合わせ鏡で、「中国人観光客が減っても他の国からの観光客が来るから大丈夫」という世論を盛り上げるため、すでにそのような多様性が実現している浅草に“わざわざ”やって来て、この世論を後押しする「勇ましい意見」を収集したのだ。
こういう話をすると、次に疑問となるのは、「なぜマスコミはそのような偏向報道を行うのか」という点だが、ニュースをつくっている本人たちには全くそんな意図はない。むしろ、自分たちとしては起きている事象を「中立公正」に扱っているくらいに思っている。
なぜ当事者の意識と、出来上がった製造物にギャップが生まれるのかというと、メディアの人間はニュースは「報道」だと信じてせっせとつくっている。しかし、多くが企業人であるために無意識に「売れ筋の商品」をつくるようなプロセスに陥ってしまうのである。
メディアも営利企業なのでニュースも「商品」として、多くの人に消費されなければならない。そこで必要不可欠なのは「分かりやすさ」だ。複雑な構造を分かりやすく解説して、疑問や憤りが解消されると人はスッキリする。そういう記事はよく読まれる。つまり、「商品」として成立する。
ただ、この「分かりやすい」ことがくせ者だ。世の中で起きている問題は複雑で、簡単に割り切れるものではない。それを強引に白か黒か、善か悪かという単純な構図で語ろうとすれば、事実をねじ曲げざるを得ない場合がある。極端なケースだけを取り上げたり、一方の証言を無視したり、自社の過去報道や論調と矛盾するような情報は握り潰したりする。これがいわゆる「偏向報道」だ。
今回の問題を本当に中立公正に扱うのならば、「日本のインバウンドは地域によって中国人観光客の依存度が異なるので、あまり影響のないところもあれば、影響が大きいところもある。他の国の観光客を呼べばいいという単純な話でもない」という結論になる。
しかし、こんなどっちつかずの話を聞いても、誰もスッキリしない。「商品」にならない。記者やディレクターというのも基本的にはビジネスパーソンなので、「商品」にならない仕事をしても評価されないし、上司からは「やり直せ」と怒られる。
そこで、高市政権を支持している、または観光公害や中国依存の経済を問題視しているメディアの記者は、「中国人観光客が減っても大きな問題はない」という声を中心に集めようとする。逆に高市政権に批判的で、観光業への悪影響を指摘したいメディアで働いている人たちは、「中国依存の強い観光地」で被害情報を集める。
もともと「取材」というくらいなので、記者というのは自分たちのつくりたいニュースを補強するための「材料」を選んで「取ってくる」ものなのだ。
こういう構造的な問題があるので、筆者は15年ほど前から「自分を含めてあらゆるメディアは偏っていて、中立公正なんてのはただのスローガンに過ぎない」ということを繰り返し主張してきた。そのたびに、「偏っているのは貴様だけだ」とマスコミの人たちからお叱りを受けてきた。某大手新聞社幹部からは本社に呼び出され、説教を受けたこともある。
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