年会費9万9000円で「買えないものを買う」 どういうこと? 富裕層カードの知られざる世界「ポイント経済圏」定点観測(3/5 ページ)

» 2025年12月04日 07時00分 公開
[斎藤健二ITmedia]

「無限」の有限性

 カードの名前は「Infinite」。無限、という意味だ。

 「無限の可能性が、無限の価値を生み出す」。大西社長がプレゼンで掲げたコンセプトである。

 では、このカードは何人に届くのか。

 質疑応答で聞いてみた。大西社長の答えはこうだった。「非常に最上級のプレミアムのカードですので、何万人のお客さまに、というのを目標にするというよりは、きっちりとサービス提供の体制を整えていきたい」。

「サービス提供の体制を整えたい」という大西社長

 何万人を目指さない。無限どころか、絞る。

 「Infinite」を名乗りながら、売っているのは徹底した「有限」である。

 だが、これは矛盾ではない。

 数学に「コッホ雪片」という図形がある。正三角形の各辺に小さな三角形をくっつける操作を無限に繰り返すと、周の長さはどんどん長くなるのに、面積は有限のまま収束する。つまり、無限は、有限の枠の中にしか存在できない。

 物理学でも同じような考え方がある。量子電磁力学の計算では、普通に計算すると答えが無限大になってしまう。そこで物理学者たちは、計算の範囲を区切る方法を使って、有限に収めることに成功した。これが朝永振一郎がノーベル賞を受賞した業績である「くりこみ理論」だ。

 無限を扱うには、どこかで線を引かなければならない。

 千利休は、茶室をわずか二畳にした。狭ければ狭いほど、精神は内へ向かう。物理的な制約が、精神的な宇宙を広げる。「何でもできる」広い空間より、「ここしかない」狭い空間のほうが、かえって深い体験を生む。

 「Infinite」カードの限定イベントは、この二畳の茶室だ。 では「無限」とは何を指すのか。会員の数ではない。イベントの回数でもない。「期待」のことだ。来月は誰と会えるか分からない。どんな体験が届くか分からない。その不確定性を「無限の可能性」と呼んでいる。

 有限の席を、無限の期待で包む――。

 ネーミング会議の様子を想像してみる。「限定感が大事です」「でも名前はInfiniteで行きましょう」。誰かが矛盾に気付かなかったのか、気付いた上で通したのか。後者だとしたら、なかなかの胆力である。

 いや、正直なのだろう。本当に無限だったら価値はない。夜空が星で隙間なく埋め尽くされていたら、どの星も輝いて見えない。闇があるから、星が見える。

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