東京の郊外には、日本武道館を大きく上回る収容人数を持つ会場がある。約5万人を収容できる味の素スタジアムである。
調布市の京王線・飛田給駅近くに位置する味の素スタジアムは、サッカーの試合やコンサートなど、多くの大規模イベントが開催される会場だ。
飛田給駅は、普段は10分に1本程度の各駅停車しか停まらない小さな駅である。大規模イベント時には特急などが臨時停車するものの、それでも列車本数は通常の倍程度にとどまる。西武多摩川線の多磨駅も利用できるが、スタジアムから距離があり、アクセス面では飛田給駅に及ばない。
飛田給駅からスタジアムまでのルートは歩行者向けに整備されており、駅構内も多くの来場者を受け入れられるよう広く確保されている。改札機の台数も十分で、周辺駅よりも早期にホームドアが導入されるなど、安全対策も進んでいる。
それでも、イベント終了時は一気に人が集中し、さばききれない場面もある。このため、調布駅から臨時バスが運行されるなどの対応が行われている。
興味深いのは、サッカーの試合後、スタジアムから調布駅まで徒歩で移動するサポーターが多いことだ。スタジアムから調布駅までは徒歩で30分ほど。調布中心部の飲食店で祝杯をあげるためという理由もあるのだろうが、混雑を避けるためにあえて駅を利用しない来場者が一定数いる点は興味深い。おそらく、駅の混雑ぶりを知るユーザーが、自主的に徒歩移動を選んだ結果であろう。
このように、平常時は閑散としていながらも、イベント時には人でごった返す駅では、状況に応じた柔軟な運用を実施している。今回、実際に現地を歩いてみたことで、駅そのものが積極的に混雑緩和に取り組んでいるケース、周辺環境により自然と分散が生まれているケース、そして利用者が自主的に混雑を回避しているケースなど、各駅の特徴が見えてきた。
環境次第では、駅だけで混雑を完全に解消することは難しく、利用者側にも柔軟な行動や時間調整が求められる。イベントと日常が共存する場所では、鉄道と利用者双方の工夫があって初めて、スムーズな移動が実現するのかもしれない。
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