「仕事を休んで大学院に進学」」「海外の大学で語学とマネジメントを磨く」──これまでは「働きながら」が前提だった学び直しが、大きく変化しそうだ。
厚生労働省は10月、「教育訓練休暇給付金」制度を新たに設置した。資格取得などを目的に30日以上の無給休暇を取った場合、雇用保険の給付(基本手当相当)を受けられる仕組みで、離職せずに“学び直し”をしやすくする制度として注目を集めている。
社員が数カ月単位で業務から離れ、リスキリングやリフレッシュのための長期休暇を取得する――。「サバティカル休暇」とも呼ばれる長期休暇制度は現状、あくまで例外的な存在にとどまっている。福利厚生としては理想的でも、“非現実的”に映る現場も多いのが実情だろう。
企業側の制度整備も追い付いていないのが実情だ。厚労省の調査によれば、2024年度時点で教育訓練休暇制度を導入している企業は7.5%にとどまる。導入しない理由として最も多かったのは、「代替要員の確保が困難であるため」(46.3%)だった。
そもそも、長期休暇制度の導入は企業にとってどんなメリットがあるのか。代替人員という壁に、どう向き合っていくべきなのか。働き方の問題に詳しい、健康社会学者の河合薫氏に見解を聞いた。
「語学やマネジメントを学びたい」「大学院に進学したい」――。長期休暇取得の動機はさまざまだが、河合氏がまず強調するメリットは、“日常の業務から離れること”によって得られる効果だ。河合氏は、多くの人が在宅勤務への切り替えを余儀なくされたコロナ禍を例に挙げ、「3カ月でも離れれば、必ず“気付き”が生まれます」と話す。
「“会社に行くな”といわれて最初は戸惑った人も、残業や飲み会がなくなったことで運動や自己啓発、家族との時間が生まれた。『いろいろできる』と気付いたことで、大切なものについての価値観が変わったわけですよね」
その上で、長期休暇は「働き方や生き方を見つめ直すよい時間になる」と河合氏。「『うちの会社、意外と良かったのかも』とか、『あのやり方、少し変だったな』とか。普段の日常から離れることは、いい面に気付く上でも悪い面にも気付く上でも、とても重要なことです」
企業に対しても、休暇を取得した人がこうした気付きを“思いがけないお土産”としてもたらしてくれることはある。「周囲の社員も『この会社にいればいろいろな挑戦ができるんだ』と思うようになれば元気が出てくるし、会社の生産性向上にもつながるでしょう」
会社にとって“都合の悪い気付き”を得て戻らない人もいるかもしれない──しかし、「10人中1人が離れても、9人が戻って活躍するなら、それは十分に“投資に対するリターン”になるはず」と河合氏はいう。「会社としては『10年後にリターンされればいい』と考えることが大切です」
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「リスキリング後進国ニッポン」で成功するために、必要な2つの戦略Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
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