川口弘行合同会社代表社員。芝浦工業大学大学院博士(後期)課程修了。博士(工学)。2009年高知県CIO補佐官に着任して以来、省庁、地方自治体のデジタル化に関わる。
2016年、佐賀県情報企画監として在任中に開発したファイル無害化システム「サニタイザー」が全国の自治体に採用され、任期満了後に事業化、約700団体で使用されている。
2023年、公共機関の調達事務を生成型AIで支援するサービス「プロキュアテック」を開始。公共機関の調達事務をデジタル、アナログの両輪でサポートしている。
現在は、全国のいくつかの自治体のCIO補佐官、アドバイザーとして活動中。総務省地域情報化アドバイザー。公式Webサイト:川口弘行合同会社、公式X:@kawaguchi_com
こんにちは。「全国の自治体が抱える潜在的な課題を解決すべく、職員が自ら動けるような環境をデジタル技術で整備していく」ことを目指している川口弘行です。
前回に引き続き「自治体システム標準化」と「ガバメントクラウド移行」をテーマに考察してみたいと思います。これらは自治体DXの基盤を再構築する国家プロジェクトと位置付けられてきました。
しかし現場では今、人手不足、想定外のコスト増、移行遅延、責任の所在の不明確さ――といった深刻な混乱が広がっていることを、前回の記事で指摘しました。
(関連記事:「自治体システム標準化」は、なぜここまで迷走するのか? 現場で見えた2つの“ボタンの掛け違い”)
これらの事業については、すでにさまざまな方が課題を指摘しています。X(旧Twitter)でも、直接これらの事業に携わっているとみられる職員の悲痛な叫びを目にします。その多くは匿名アカウントですが、公式見解では言えないリアルがここにあります。
CIO補佐官として、現場でこの取り組みに関わってきた立場から、少し見方を変えて、「マネジメントの視点」から、この事業について書き記しておくことにします。
筆者はこの「標準化」「ガバクラ」に限らず、いかなる取り組みに対しても、WHY-WHAT-HOWの順番で具現化するように意識しています。
そして、WHY(なぜその事業を行うのか)について関係者間で合意しておき、WHYに近付けるためのWHAT(何をするのか)、HOW(どうやってするのか)を試行錯誤しながら定め、少しずつでも前に進めていくことが、先の見えない世の中における事業の進め方だと考えています。
ソフトウェア開発の用語で言えば、「アジャイル型」と言えるかもしれません。
一方、一昔前の公的機関の事業の進め方は、綿密な計画を立て、計画どおりに着実に取り組みを積み重ねていき、大きな成果を積み上げていくという方式が主流でした。
例えば昔の情報化計画はその多くがインフラ(通信網)の整備であり、高速インターネット網や携帯電話のエリア拡大がその対象だったように思います。
政府も自治体もそのための余裕と大義があったともいえますし、人的資源の不足は個々の職員の努力(過重労働)で補っていた側面もあります。
その意味では、WHYが決まり、それに応じたWHATも決まり、さらにそのためのHOWも決まり、それらを順番どおり丁寧にやることが必勝法だったわけです。これは「ウォーターフォール型」といえます。
今回の「標準化」「ガバクラ」も見方によっては、行政システムに関するインフラの再構築といえるため、ウォーターフォール型でも勝算はあったかもしれません。一方、筆者は、アジャイル型により、政府が想定している以上の成果を生み出せる手応えはあったので、その方向性でチャレンジしたいと考えていました。
さて、実際はどうだったのでしょうか。
その答えは「どちらに寄ることもできなかった」というのが、筆者の見立てです。
前回の記事でも「WHYとWHATの関連が軽視された」と指摘しましたが、この事業は、政府が全ての費用や人的リソースを負担して実施する「直轄事業」ではありません。多数の自治体や事業者を巻き込んだ事業である以上、実際に現場を担う自治体や事業者が政府の掲げるWHYに納得し、共感しない限り、主体的には動いてくれません。これはウォーターフォール型・アジャイル型、どちらの場合でも同様です。
とは言うものの、後から示された基本方針でありながら、WHYが明確になったことで、自治体や事業者もいったんはそのWHYを信じ、無理を承知で取り組んだのだと思います。
残念ながら、政府の動きは自治体や事業者の期待に答えてくれるようなものではありませんでした。
もし、これらの取り組みがウォーターフォール型であるならば、WHY-WHAT-HOWの全てを緻密に組み立てて進めていたでしょうし、不確定要素を排除するために「標準仕様書」ではなく、実際に動作する「標準システム」を開発するように行動したと思います。
しかし実際には、政府が標準化対象システムの標準仕様書を示し、各事業者がその仕様に基づいてシステムを開発することで「標準化」とした形でした。
前回の記事に続けて、ボタンの掛け違いを論じるなら、筆者は「標準システムそのものを政府が作らなかったこと」が3つ目の大きな問題点だったと考えます。
「自治体システム標準化」は、なぜここまで迷走するのか? 現場で見えた2つの“ボタンの掛け違い”
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