「AIエージェントに『経費精算しといて』と言えば、あとは全部やってくれる」──。そんな未来が来れば、従来のSaaSは不要になるのではないか。2025年初頭から業界を揺るがす「SaaS is Dead」論である。
だが、経費精算SaaS「楽楽精算」で国内トップシェアを誇るラクスは、この議論に対して「SaaS is Not Dead」と断言する。
同社の取締役兼CAIO(Chief AI Officer)である本松慎一郎氏は、ChatGPT登場時から生成AI対応を主導してきた人物だ。大学時代に知識工学(AI関連分野)を専攻し、2001年のラクス創業期から事業を見続けてきた。
その本松氏に、SaaS is Dead論への見解を問うた。返ってきたのは、AIエージェント礼賛の風潮への率直な違和感と、2年間の試行錯誤から得た実践知だった。
AIエージェントへの期待は、例えばこんなイメージだろう。
領収書を渡して「これ処理しといて」と言えば、あとは秘書のようによしなにやってくれる。確認が必要なときだけ聞いてくる。税理士に丸投げするような体験──。
本松氏は、この期待に冷や水を浴びせる。
「経費精算には最大で20項目の入力が必要だ。90%の業務は6項目で済むかもしれない。でも100%の業務を回そうとすると、入力項目が20個に増える。AIエージェントがフロントになったとしても、この20項目分の情報はやっぱり必要になる」
問題は、その情報をどう集めるかだ。
「20項目のうち13項目をチャットベースでいちいち聞かれるのは、あまりいい体験じゃない。それだったらWebのUIで入れた方がいい」
SaaSのUIは、一見すると入力項目が多くて面倒に見える。だがそれは「業務に必要な情報を網羅的に入力できる」ように設計されているからだ。本松氏はこれを「SaaSのUIの良さ」と表現する。
では、AIエージェントをフロントにした「ハブ型」──いわゆるHeadless SaaSの世界は、本当にユーザー体験を改善するのか。
「チャットが本当にUIとして最良なのか。ChatGPTみたいな汎用的な使い方はOKだけど、業務においてチャットは本当に最良なのか。それはかなり怪しいよね、という声はすごく聞く」
本松氏が指摘するのは、「正常フロー」と「例外フロー」の違いだ。
「7割8割の業務はチャットでできるかもしれない。でも残り2〜3割をやろうとすると、すごく煩雑なインタラクションが発生する。結局『SaaSの画面で入れてください』という話になってしまう」
有給申請を例に取ろう。残日数が足りていればスッと通る。だが足りなければ「病気ですか?」「慶弔ですか?」と順繰りに聞かれる。事前申請が必要なケース、事後でもOKなケース──業務ルールを満たしながら全パターンをチャットで回そうとすると、途端に複雑になる。
「領収書の情報だけで完結する経費精算もある。でも付帯情報が必要なケースは聞きにいかなきゃいけない。それが増えれば増えるほど、チャット系のインターフェースはそぐわなくなる」
これが、チャットUIの限界だ。
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