チャットUIへの懐疑は、より根本的な問いにつながる。そもそも生成AIは、経費精算のような業務に向いているのか。
「生成AIが得意なのは『答えの幅があるもの』だ。正解が一つだけというのは逆に苦手。小説を書く、スライドを作る、人の会話を模倣する──解釈が介在するアウトプットは得意だ」
人間だって同じことをしゃべるのに、表現のニュアンスや抑揚は変わる。この「幅」を再現するのが、生成AIの真骨頂だ。
では、経費精算はどうか。
「購買の人が何か物を買った時、その経費精算の正解は一つだけだ。会社が違えば正解は変わるが、ある会社においては正解は一つ」
コンピュータを買ったとして、10万円未満なら費用、30万円なら資産計上して減価償却。システム開発用なら原価、営業のデモ用なら販管費──。勘定科目の振り分けには、その会社固有の「ルール」がある。
「『唯一の正解』をズバリと決めていくのは、生成AIは苦手だ。ルールに沿って分岐がある。これはルールベースの意思決定で、SaaSが得意な領域だ」
ここで本松氏は、核心を突く数字を挙げた。
「生成AIに任せると、95%の正解は作れる。でも5%は例外が出る。問題は、その5%の誤りがどこか分からないことだ」
結局、誰かがチェックしなければならない。チェックの仕組みを作り込んでも、すり抜けは起こる。最後は人間が登場する。
「だったら最初からルールに沿って100%の精度で仕訳できるSaaSを使えばいい。われわれの楽楽精算は、既にそう組まれている」
ラクスが現時点で選んでいるのは「埋め込み型」──AI Powered SaaSだ。SaaSのUIはそのまま残し、その裏側でAIエージェントが働く。利用者が見ているのはあくまでSaaS。AIは黒子に徹する。
対して「ハブ型」は、AIエージェントがフロントに立ち、複数のSaaSを呼び出して業務を遂行する。
なぜ、埋め込み型を選ぶのか。
「生成AIでは社内のガバナンスをきちんと管理した形で仕事をするのが、まだ難しい」
経費精算には、アクセス権の問題がつきまとう。社長には幅広い決裁権がある。一般社員は限定的だ。誰が承認したのか、しかるべきチェックを経ているのか、その証跡も残さなければならない。
「これにはデータストレージが必要だ。過去の伝票データが適切な形で蓄積されていないといけない。AIエージェントは汎用性が高まるほど、こうした機能を持たなくなる」
アクセス権管理、承認フロー、監査証跡──これらはSaaSにあって、AIエージェントにはない。
「だからフロントはSaaSの方が安心だ」
もう一つの理由は「実績」だ。
「まだ誰も、AIエージェントをフロントにして経費精算業務を回した実績がない。100%の精度が求められる業務で、『もしかしたらAIでいけるかも』というチャレンジ精神では踏み込めない」
「将来的にはハブ型になると思う。でも今は、確実にいける選択が合理的だ」
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