中でも重要だったのが、企業理念の刷新だ。先代が掲げていた「不をなくすことが私たちの仕事です」という理念は言葉としては浸透していたが、社員の具体的な行動には結びついていなかった。「顧客利益の最大化」という大きな思想は変えずに、新たな理念と行動指針を策定し、それを判断基準として機能させることを目指した。
浸透のために取り組んだのは、日常の中で理念を口にし続けることだ。朝礼での読み上げに加え、1on1や会議でも「この提案は顧客利益の最大化につながっているか」と確認する習慣を作った。
だが、言葉だけで浸透するほど理念は軽いものではない。宗万氏が「一番効いた」と語るのは、龍生氏自身の行動だったという。
「あるとき、億単位になりうる建築案件が持ち上がりました。営業としては絶対に取りたい規模です。しかし建設予定地の立地は、オーナーにとって良い投資にならない可能性がありました。結果、兄はその案件をストップさせたんです。自社の売り上げを捨ててでも顧客に尽くす。代表自らが企業理念を行動で示したことで、社員たちも本気なんだと感じたと思います」(宗万氏)
理念の刷新と並行して、龍生氏は労働条件の改善にも着手した。「労働条件が整っていない会社には愚痴が増える。環境への不満が先に立つと、前向きな提案は出てこない」という考えからだ。有給休暇を理由なく取得できるようルールを変え、年間休日も増やした。
中でも象徴的だったのが、およそ30年続いた「宿直制度」の廃止だ。入居者からの夜間の電話対応を社員が交代で担う制度で、他社の多くが外部のコールセンターに委託する中、ハタスは社員が直接対応していた。
宿直制度には先代のこだわりがあった。「コールセンターでは入居者の悩みを解決できない。最終的にオーナーに迷惑がかかる」という考えだ。そのため、宿直の廃止を口にすること自体が社内ではタブー化していた。
しかし、その先代の退職を機に状況は一変。廃止の話が出ると、社員たちが次々と協力を申し出た。「みんなずっとやめたかった。全員が同じ方向を向いていたので、動きは早かったですね」と宗万氏は振り返る。
ただし課題もあった。コールセンターに移行することによる「コスト増」と「クレーム対応の質の維持」だ。宿直制度を廃止したかったとはいえ、それは決して顧客対応をないがしろにしているわけではない。そこで解決策として生まれたのが、24時間のコールセンター対応と火災保険などをセットにした会員制パッケージ「入居者補償制度 ハタスCLUB」だ。
加入する場合、入居者は追加料金を支払う。この収入で外部委託コストを吸収した。コールセンターが受けた問い合わせ内容は社内システムに記録され、再発防止に活用できる仕組みも整えた。
構想から実現まで、約1カ月。30年続いた制度があっという間に変わった。入居者は質の高いサービスを継続して受けられ、会社はコスト増を防げる。そして、社員の負担も減った。「このときの成功体験が、全社で改善に取り組む文化の礎になった」と、2人は振り返る。
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