宿直廃止のような労働環境の改善と同時に、生産性向上も進めた。改革の過程で役員5人中3人、社員の3分の1が会社を去ったため、少ない人数で業務を回す仕組みが急務だったからだ。
まず取り組んだのはシステムのスリム化だ。複数の情報管理システムを導入していたことで、情報入力のためにシステムを行き来する手間が生じていた。情報システム部門が全社横断でシステムの整理を進め、業務の流れを簡素化した。
次に着手したのがAI活用だ。大きな成果につながったのが、不動産オーナー向け報告書の自動作成である。賃貸管理会社には年1回、管理状況をオーナーに報告する義務がある。クレーム対応や修繕の履歴を書類にまとめる作業で、法改正により項目も増え、100時間以上かかることもあった。「文章の生成から画像の添付まで自動化したら、年間1350時間の削減につながりました」と龍生氏は話す。
こうした仕組みを機能させるには、組織の体制も変える必要があった。部署ごとに業務が縦割りになっていては、せっかくの効率化も生きない。そこで、部署を越えて複数の業務を担える体制づくりを進めた。「DXと仕事の配分を組み合わせると、効率は大きく上がります」(龍生氏)
その結果、繁忙期には月40時間近くあった残業時間が10時間程度に減少。離職率も一桁台に改善された。直近の社員満足度調査でも、社内の雰囲気や働きやすさの項目で良好な結果が出ているという。
残業時間の削減、離職率の改善――数字だけを見れば、改革は順調に進んだように見える。だが、その裏で多くの社員が会社を去ったことに、痛みがなかったわけではない。
「新しい方針についてこられず会社を去った社員もいましたが、会社を良くしたいという意図を理解して、支持してくれた社員が多くいたことは救いでした」と宗万氏は振り返る。龍生氏も「文化が変われば、その文化が好きだった人は離れる。組織はそれくらい不安定なものだと学びました」と語る。
20代前半で100人規模の会社を率いる重圧は大きかった。宗万氏は当初、自分が何とかしなければという思いから、夜遅くまでオフィスに残る日が続いていた。100人以上いる組織の中で、自分一人が動いたところで何も変わらない。頭ではわかっていても、何かせずにはいられなかった。
そんなある夜、残業していた社員から声をかけられた。「もっと頼ってくださいよ。自分にしかできないこと以外は全部投げてほしい」。この一言が、宗万氏の考え方を変えた。人事、経理、システム、営業――それぞれの分野には、自分より経験のある管理職がいる。彼らに任せ、経営者は方針を決めて最終判断を下すことに徹すればいいと。
龍生氏の学びは「世の中、うまくいかないことだらけ」だという。誰かに任せてもうまくいかない、自分でやってもうまくいかない。社員を育てたいと思っても、制度、教育、営業スタイルなどさまざまな要素を整えなければ機能しない。「そこまでやらないと人は動けない。だからこそ仕組みを整え、社員が動ける環境を作る。それが経営者の仕事だと思います」(龍生氏)
有無を言わせない突然の事業承継。だが龍生氏は、先代である父への感謝を口にする。「経営方針で対立したこともありましたが、父には本当に感謝しています。3代続く会社を守り、僕らに託す決断をしてくれた。だから今がある」
父から受け継いだハタスイズムを胸に、若き2人の経営者はこれからも前に進んでいく。
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