小林氏がブランディングで重視するのは、地域社会や教育機関との連携を通じた体験の創出だ。2025年11月に東京・早稲田大学ビジネススクールで開催した長内厚教授のオープンゼミで、小林氏は「おいしい! 楽しい! ヘルシー! 〜納豆の未来イノベーション戦略〜」をテーマに講演した。講演後のグループワークでは、「廃校を活用した納豆施設の開設」や「納豆が苦手な人向けのサプリメント開発」など、ブランド戦略や商品開発に関する提案が次々と出された。このゼミには多くの社会人が通っている。
「現役で仕事をしている人たちの発想は、やはり違うなと思いました。一つの商品としてではなく、事業として捉えていた。新千歳空港を降り立って工場まで行く動線まで描いていた。私たちにはない視点はとても参考になったし、今後の事業戦略に生かしたいです」(小林氏)
こうした構想は、ブランドを「店頭で選ばれる商品」から「訪れて体験する場所」へ拡張する発想だ。小林氏自身、教育機関との連携を継続的に進めている。函館短期大学とは2023年1月に連携協定を締結し、栄養士・保育士を目指す学生たちと納豆レシピや絵本の制作に取り組んだ。子どもたちへの読み聞かせを通じて、納豆に親しんでもらう活動も展開している。
ブランド発足と同時に立ち上げたオウンドメディア「納豆学園」では、納豆学園2年生という設定の「ダイちゃん」を起点に、レシピや豆知識を発信し、Web上でのコミュニティ形成を目指している。
北海道教育大学函館校では留学生向けに納豆授業も実施した。蜂蜜をかけるなどさまざまな食べ方を試しながら、納豆を食べたことがない学生や苦手な学生と対話し、海外展開のヒントを探る。
「函館で留学生向けにやったイベントは、海外に少しでも広まってほしいという趣旨でした。納豆のことを知ってもらうと同時に、納豆って楽しいよということを伝えていきたいです」(小林氏)
シンガポール国立大学とは商品開発で連携し、学生たちに納豆クラッカーを開発してもらうなど、産学連携を積極的に進めている。ブランドの価値を高める手段として、一方的に発信するのではなく、連携と体験を選ぶ。この発想が、ヤマダイフーズプロセシングのブランディングを特徴付けている。
小林氏は、ブランディングを社会貢献や販売戦略だけでなく、人材獲得の戦略としても位置付けている。
「運送会社でも、水産加工会社でも、ブランディングは必要だと思っています。採用の面で、就職したいと考えた時に自社を選んでもらう。これも多分、納豆を選んでもらうことと同じようなことだと思います。『なんかいいよね、この会社』と感じてもらうことが大事だと感じています。そう思われるようなことに取り組んでいくと従業員の満足度も上がる。この会社で良かったなって思ってもらえると考えています」(小林氏)
現在、同社グループの従業員数は約250人で、半分が正社員。まだ新卒採用の本格的な体制は整っていないのは、今後の課題だと話す。同グループの企業理念は「夢を描き、未知を進み、喜びを創造する」。小林氏自身、人材を集める上で心がけていることがある。
「ちゃんと自分が等身大で素直に話せる人間でいることですね。加えて、夢を描いていけないとダメだと思いますね」(小林氏)
同社で広報を担当する金子真人氏は、小林氏のビジョンに惹かれて転職した一人だ。
「社長が就任されて、ブランディングに力を入れていきたいという話を聞いて、まだまだやっていないことがたくさんあると感じました。今まで、とても良いことに取り組まれているのに、情報発信が十分にできていない。100億円の売り上げ目標にも非常に惹かれました。従業員が活躍できるような環境を作りたいという社長の思いに共感し、私も一緒にそういう会社を作っていきたいなと思いました」(金子氏)
小林氏は、社長就任から3年半をかけて、組織力を高め、生産効率を追求し、次の成長を可能にする体制を築いてきた。売上高100億円という目標の先に、さらなる構想を描いている。
「社長になって5年間というのが一つの区切りです。来年、再来年で経営基盤を固めて、残りの5年で売上高を作っていく。今から2年後を目標に新規事業にも積極的に参入していきたいです。日本全国あるいは世界に通用するような事業もできればいいなと思っています。何かを開発して、さまざまな課題を解決できる未来につながるようなことをしていきたいです」(小林氏)
小林氏が実践してきたのは、大規模な投資に頼らない成長戦略だ。その先に見据えるのは、函館から世界へ、納豆メーカーの枠を超えた事業展開である。経営の設計力で築いてきた成長モデルが、次は新たな事業を切り拓こうとしている。
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