変革の財務経理

実は違う!? 「AIエージェント」と「エージェント型AI」 今のうちに知っておきたい使い分けファイナンス組織「3つのジレンマ」とデジタル活用(4/4 ページ)

» 2026年01月08日 07時00分 公開
[山岡正房ITmedia]
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エージェント型AIは、使う人間の“鏡”に――求められる能力は?

 次に、自律的AIの活用が、エージェント型AIという総合的な仕組み、システムまで及んだ際に、それを使いこなす上で人間側に求められる能力について考える。

 AIワークフローおよびAIエージェントが個々のメンバーだとすると、エージェント型AIは一つのチームである。したがって、エージェント型AIを使いこなすには、複数のチームを使いこなすのと同様の能力が求められると言える。

 その際に、まず重要なのは、各チームを運営するチームリーダーを育成し、権限委譲を進めることだ。チームに対して適切な目的とゴールを設定し、それを実現するための適切なメンバー配置と役割分担をチームリーダーの意見も聞きながら設定する。そして、マイクロマネジメントにならない程度にコミュニケーションを取り続けながら、チームの成果をレビューし、適切なアドバイスを与える。そして、チームリーダーの成長に合わせ、権限委譲の度合いを強めていくとともに、チームの結果に対して自分が責任を取るという、強いコミットメントを示す。その過程で、ご自身とチームリーダーとの間に強い信頼関係を築いていく。

 エージェント型AIを使いこなすに当たっても同じような行動が必要である。自律性の高い総合的なAIシステムだからといって、いきなりその自律性に全てを委ねるのではなく、エージェント型AIのアウトプットに対して適宜フィードバックする。また、エージェント型AIを構成する個々のAIワークフローやAIエージェントの配置や設計を、エージェント型AIの推奨意見も参照しながら、断続的に見直していく。

 このように、エージェント型AIの行動結果に対して信頼を置けるようになるまで、一定の期間をかけてエージェント型AIを育てていく。また、AIが出した結果だからと言い訳に使うのではなく、その結果に対しての責任は全てご自身にある、ということを常に自覚しておく。この積み重ねが必要だ。

 もう一つ重要な点は、自身の考え方、志向性を常に見直すことである。

 例えば、各事業のKPIを分析し、全社ROICを最大化するための事業ポートフォリオの最適化に向けて必要な行動を導き出す、という非常に高度なエージェント型AIがあるとする。この時、あなたの志向性が「分子である“利益”を増やすためにコストを削減する」もしくは「分母である“運転資本”を圧縮する」という一方向に偏ったものだとどうなるだろうか。

 エージェント型AIに対してフィードバックを与えたり、方向性を示したりするたびに、エージェント型AIはあなたの志向性を学習していく。結果として、エージェント型AIが導出するアクション案は、「コスト削減」や「運転資本の圧縮」に偏ったものになってしまう。

 この偏りは、AIが学習するたびに徐々に使用する人間の志向性と一致していくため、あなたにとっては心地よいアウトプットかもしれない。しかし、それを受けた事業現場は、現場のことが分かっていないと反発し、抵抗を続けるかもしれない。あるいは短期的には成果が出ても、縮小均衡に向かうことも危惧される。

 ここで重要なのは、「想像」と「創造」である。AIが導き出す分析結果から、現場で何が起きているのか、あるいはこの施策を実施したら現場にどういう影響を与えるのか、について想像力を働かせる。その上で、単なる係数管理にとどまるのではなく、データから価値創造に向けた洞察を導き出し、事業現場を巻き込んで、一緒に汗をかき行動に移す。その中で自身がどのような志向性を持っているのかを客観的に分析し、必要であれば躊躇なく見直す。そのためのツールとしてエージェント型AIを活用するという姿勢を常に持ち続けることが重要である。

photo04 (図3)AIワークフロー、AIエージェント、エージェント型AIを使い分けるスキルが求められる

AIと共に働く時代、ファイナンス人材に求められる覚悟

 本稿を読み進めるにつれ、自律性の高いAIを使いこなすのは難しい、とハードルを感じたかもしれない。

 しかし、いきなり部下ができて、あるいはチームを任されて、最初からそれをうまくマネジメントできる人はいないのではないか。各人の適性に応じて配置し、仕事を与える。チームに適切な方向性を示し、成長させ、権限移譲を進めていく。これは経験と試行錯誤を重ねる中で成熟度が増していく能力である。

 AIを使いこなすのも同じことだ。数あるAI技術の中で、いきなり高度なものを追い求めるのではなく、まずは現時点で使いこなせそうなAIを実際に使ってみてほしい。AIとの付き合い方の経験値を高めていき、より自律性の高いAIにシフトしていくことが重要である。

 最初の一歩を踏み出さない限り、この経験値は積めない。そして、踏み出した人と踏み出さない人のAI格差はどんどん広がっていく。本稿が、行動に移すきっかけになれば幸いだ。

著者紹介:山岡正房

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社ファイナンスパートナー

2014年に入社後、クライアント企業のCFO部門向けに制度対応から業務プロセス改革、組織体制の見直し、グループ経営管理の強化、デジタルの活用など、さまざまな変革支援をリード。近年はファイナンスDXおよびトレジャリー領域にフォーカスし、関連プロジェクトの責任者を務めると共に、新たなコンセプトやソリューションの開発に取り組む。

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