しかし、必要性を理解していても、さまざまな課題により経理DXが思うように進まず悩む企業は多い。
葛西氏は自身の経理部長時代の経験から、DX推進を阻む「壁」について説明する。
1つ目の壁は「現状維持バイアス」だ。「今はなんとか回っている。だから新しいことをする必要性を感じない」といった意識が、組織全体に広がっていることが、新しい取り組みへの一歩を躊躇(ちゅうちょ)させている。
2つ目は「経営層の慎重姿勢」だ。DXには投資が必要になる。しかし経営層の中には、大規模なシステム刷新での失敗事例を見聞きし、変革を「リスク」と捉える人も少なくない。
「予算の決定権は上層部にあります。現場がいくらDXの必要性を訴えても、『コストがかかりすぎる』と承認されないこともあるのです」と葛西氏は実情を語る。現場にやる気があっても、上層部の理解がなければプロジェクトは前に進まない。
そして、最後の壁は「現場の当事者意識の欠如」だ。経理担当者の中には「システム導入は情報システム部門の仕事だ」と考える人もいる。こういった人々をいかに巻き込むかが肝となる。
これらの壁は相互に関連している。現場に当事者意識がなければ、経営層への説得材料も乏しくなる。経営層の理解がなければ、専任体制も組めない。
では、壁を乗り越え、DX化を進めるにはどうすればよいか。葛西氏は「3つの鍵」として、具体的な方法を示した。
「3つの鍵」とは、「当事者意識の醸成」「DX人材の育成」「専任体制の確保」だ。
前述のように、DXプロジェクトを立ち上げても「自分には関係ない」と考えるメンバーも少なくない。配布される資料は専門用語だらけで、自分の仕事がどう変わるのかが見えない。結果として「やらされている感」だけが残る。
葛西氏自身、この壁にぶつかった経験があると打ち明ける。
「以前、会計システムの導入を進めた際、説明に十分な時間を割かずに進めてしまいました。結果として、メンバーの協力を得られなかったのです」
この失敗から学んだのは、「ゴールを具体的に示し、繰り返し説明する」ことの重要性だ。「最終的に何を実現したいのか」を繰り返し伝えることで、当事者意識は醸成されていく。
次に必要になるのが「DX人材の育成」だ。「会計・税務」の知識と「ITスキル」の両方を持つ人材は、どこの企業でも多くはないだろう。葛西氏は、業務改善に積極的なメンバーを見極め、育成対象とすることを勧める。
具体的な育成方法としては2つのアプローチを示した。1つ目はITパスポートなどの資格取得を促すこと。2つ目は経費精算システムの導入など、小規模なプロジェクトで実践経験を積ませることだ。社内にノウハウがなければ、外部の専門家を活用する手もある。実際に、外部のDX経験者に駐在してもらい、プロジェクトの進め方を学ぶ企業も増えているという。
さらに重要なのが「専任体制の確保」だ。
「DXのコアメンバーは、通常業務を大幅に減らす必要があります。私の経験上、“100%専任”が望ましいと考えています。兼務では、失敗しやすいからです」
なぜ兼務では失敗するのか。日常の経理業務には締め切りがある。月次決算、四半期決算、年度決算。これらが迫れば、どうしてもDXプロジェクトは後回しになる。「決算が終わったら着手しよう」と先延ばしにしているうちに、あっという間に1年が過ぎてしまう。専任体制を敷くには経営層の理解と予算が必要だが、それだけの覚悟がなければ成功は難しい、と葛西氏は語る。
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