HR Design +

急成長企業の「バックオフィスSaaS活用」最適解 創業半年で16億円調達したベンチャーの裏側あの企業が使うバックオフィスSaaS(1/2 ページ)

» 2024年10月15日 07時00分 公開
[斎藤健二ITmedia]

 企業のバックオフィス業務にSaaS(Software as a Service)を活用することは、もはや特別なことではない。大企業から中小企業まで、多くの組織がクラウドベースのサービスを利用し、業務効率化やコスト削減を実現している。

 あまたある企業の中でも、過去のシステム資産や業務慣習にとらわれず、最新のテクノロジーを柔軟に採用できるのは、創業間もないスタートアップだろう。ITリテラシーの高い若手人材が中心となり、白紙の状態から最適なシステム環境を構築できる彼らこそ、現時点でのSaaSベストプラクティスを体現していると考えられる。

 2024年4月に創業し、わずか数カ月で16億1000万円の資金調達に成功したPeopleXは、そんなスタートアップの1つだ。同社が選択したSaaSの組み合わせは、スタートアップがゼロから最適なバックオフィス環境を構築する際の、1つの指針となるかもしれない。

 ただし、SaaSの世界は日々進化している。今日のベストプラクティスが、明日もベストであり続ける保証はない。本稿では、PeopleXのSaaS選定プロセスと、その結果構築されたバックオフィス環境を見ていく。そして、スタートアップがSaaSを活用してDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進する際の、現時点でのベストプラクティスを探っていこう。

設立半年・HRテック企業の「SaaS最適解」とは?

 PeopleXは、4月に創業されたHRテック企業だ。元弁護士ドットコム取締役で、クラウドサインの事業責任者を務めた橘大地氏が起業した。「エンプロイーサクセス」という概念を掲げ、企業の持続的成長のために社員が能力を最大限発揮できるよう支援するプラットフォームを開発している。

 同社の主力製品「PeopleWork」は、社員のスキルアップやエンゲージメント向上に特化したエンプロイーサクセスHRプラットフォームだ。橘CEOは「社員の成長環境の構築、賞賛機会の増加、仲間意識の向上という3つの視点から、エンプロイーサクセスを実現する」と説明する。

 PeopleXは創業からわずか数カ月で16億1000万円の資金調達に成功した。この急成長の背景には、人的資本経営への注目の高まりがある。「企業の持続的成長には、社員一人一人の能力発揮が不可欠。その実現を支援するのがわれわれの使命だ」と橘CEOは語る。

橘大地CEO。創業からわずか半年、PeopleXはシードラウンドにて16.1億円の資金調達を実現した。

 では創業間もない同社が、どのようにSaaSを選定し活用しているのか。次節から、その具体的な戦略を見ていこう。

SaaS選定の基準と戦略:PeopleXに見る戦略的アプローチ

 PeopleXが採用したSaaS選定の戦略は、「社員ファースト」「将来の拡張性」「システム間連携」の3つの柱に集約される。同社がどのような基準でSaaSを選び、活用しているのか、詳細に見ていこう。

PeopleXが導入しているSaaSの構成図。複数のSaaSを連携させている

社員ファーストでの選定

 PeopleXは、SaaS選定において社員の使いやすさを最重要視している。この方針は、特に日常的に利用するシステムの選択に顕著に表れている。

 経費精算から稟議、請求書の発行・受取はLayerXの「バクラク」シリーズを採用した。決め手となったのはOCRの精度の良さとUIだ。「社員が使うシステムは、分かりやすさと使いやすさが極めて重要。特に経費精算のような全社員が使用するシステムは、操作の煩雑さが業務効率を大きく左右する」と話すのは、アカウンティングチームの鈴木大也マネージャーだ。 

 経費精算や請求書などのSaaSは、さまざまなプロダクトがしのぎを削る激戦区だ。選定にあたったメンバーは、過去に「マネーフォワード経費」や「freee経費」なども利用した経験があるが、「周りの使っている人に聞くと、バクラクの評判がいい」ところも決め手になったという。

 社員が利用するシステムはIDを1本化したいと、勤怠管理システムも発表されたばかりの「バクラク勤怠」の導入を決めた。まだ実績の少ないSaaSだが、リリース直後だということで「必要機能の開発依頼も一定可能」(開田康志CFO)という点も魅力だったという。

将来の拡張性を見据えた選択

 SaaS選定には、現在の使いやすさだけでなく、将来の事業拡大を見据えることも重要だ。これは特に、コアとなる会計システムの選定において顕著だ。

 会計システムは、「マネーフォワード会計」を採用した。検討の候補に上がったのは「マネーフォワード会計」と「freee会計」だった。前職ではfreeeを使っていた担当者もいたが、機能的にはほぼ違いはないという。

 「例えば、外貨建取引の際に、外貨に関しては円貨のような金額の入力欄がなく、タグの適用を駆使する必要があるなど、そういった点も含めてほぼ横並び」(鈴木氏)

 決め手になったのは、将来の連結会計への対応だという。開田CFOは「今後の事業拡張の中で、連結会計を視野に入れる必要があった。マネーフォワードは上場企業レベルの機能まで備えており、われわれの成長に合わせて利用できる点が魅力」だと説明する。

 売上・請求管理において導入を検討しているのが、サブスクリプション管理に特化した「Zuora」である。同社は、現在手動で請求処理を行っているが、事業の成長に伴い自動化が不可欠となる。「Zuora」は、グローバルで広く利用されており、特にサブスクリプションビジネスの管理に強みを持つ点が評価されている。開田CFOは「『Zuora』を導入することで、請求から入金までの処理の自動化が進み、今後の事業拡張にも柔軟に対応できる」と期待を寄せている。

       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.