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「とりあえず、やってみる」 創業130年、老舗の海苔会社がデジタル改革で得た“意外な成果”(1/2 ページ)

» 2024年10月01日 07時00分 公開
[斎藤健二ITmedia]

 「取りあえず、やってみれば」

 これは、創業130年を誇る老舗海苔メーカー、小善本店(東京都台東区)が掲げる意外な合言葉だ。伝統産業の代表格ともいえる海苔製造の世界で、なぜこのようなチャレンジ精神あふれる言葉が飛び交うようになったのか。その謎を解く鍵は、同社が近年推進する大胆なデジタル化戦略にある。

 小善本店は1894年創業の海苔製造販売会社だ。長い歴史の中で培った品質と信頼で、国内外に確固たる地位を築いてきた。しかし、2019年を境に社内の様子が一変する。「IT化とともに、若い人に受け入れられるようにしたかった」と、常務執行役員で社長室管理本部長、BtoC事業本部長、そしてITシステム部長を兼任する小林祐介氏は当時を振り返る。

 変化の象徴が、3年前に一新されたというオフィスだ。来訪者は口をそろえて「どこのスタートアップですか?」と驚くという。伝統と革新、アナログとデジタル。相反するものが融合する小善本店のオフィスに、同社の変革への意気込みが表れている。

創業130年を誇る老舗海苔メーカーながら、建て替えた新オフィスはスタートアップ企業のようだ

 しかし、なぜ130年もの歴史を持つ企業が、突如としてデジタル化に舵を切ったのか。そして、「取りあえず、やってみれば」という姿勢は、どのような成果をもたらしたのか。老舗企業の大胆な挑戦の裏には、何があったのか。

伝統とデジタルの融合、その意外な転機とは

 小善本店のデジタル化への道のりは、多くの企業と同様、2020年の新型コロナウイルス感染症の流行がきっかけだった。しかし、同社の変革はそれ以前からひそかに進行していた。

 小林氏は5年前、情報系の大学を卒業後、大手金融機関で営業やIT企画の経験を積み、家業である小善本店に入社した。「IT化できていないという課題は認識していました」と小林氏は当時を振り返る。しかし、130年の歴史を持つ企業の体質を変えることは容易ではない。そこで小林氏が取った作戦が「取りあえず、やってみる」だった。

 「コロナ禍の前から、オンラインミーティングの環境整備を始めていました」と小林氏は語る。当初は「一つの選択肢」にすぎなかったこの取り組みが、パンデミックを機に「必然」へと変貌を遂げる。

 しかし、デジタル化への障壁はそう簡単には崩れなかった。「年齢が高い人がネックになるのでは」と小林氏は危惧していた。ところが予想外の援軍が現れる。それは、テレビだった。

 「テレビでDXの必要性が盛んに報道されるようになったんです」と小林氏は笑う。「高齢の社員こそテレビをよく見ている。それが功を奏しました」。皮肉にも、既存の媒体であるテレビが、デジタル化への抵抗を和らげる役割を果たしたわけだ。

 だが、オンラインミーティングの導入は、小善本店のデジタル化の序章にすぎなかった。本格的にSaaS活用していく過程で、同社は思わぬ壁にぶつかることになる。

「取りあえず、やってみる」から始まった大変革

 小善本店が直面した「思わぬ壁」は、意外にも自社の販売管理の基幹システムだった。長年使い続けてきたオンプレミスのフルスクラッチシステムは、デジタル化の足かせとなっていたのである。

 「システム外で別途作って無理やり対応していました」と小林氏は苦笑する。この状況を打開するため、同社は大手ベンダーのパッケージソフトを導入。しかし、この選択が新たな課題を生み出すことになる。

 「確かに機能は多かったのですが、カスタマイズには膨大なコストがかかる。『これ絶対もっとよくできるよね』と思いました」と小林氏は当時を振り返る。ここで小林氏は決断を下す。5年の契約期間をへて、システムの刷新を決めたのだ。

 次に選んだのは、クラウド型の会計ソフト「freee」だった。「APIが使える点や、自分で調べていろいろとやっていける点が決め手でした」と小林氏は説明する。さらに、「だまっていてもアップデートしてくれる。常に最新である」というSaaSの特性も、選択の理由だった。

 freeeの導入を機に、小林氏はさらなる改革を決意する。それまで、人事労務管理や経費精算など各業務に特化した別々のSaaSを利用していたが、これらをfreeeの各プロダクトに順次切り替えていったのだ。

 「複数のSaaSを使用していると、システム間の連携が煩雑で、データの一元管理が難しくなります」と小林氏は説明する。「freeeに統一することで、これらの課題を解決できると考えました」

 この決断により、バックオフィス業務の大半がfreeeで統一された。「1つのプラットフォームに集約することで、データの連携がスムーズになりました」(小林氏)。各システム間でのデータ連携の手間が大幅に削減され、業務効率が飛躍的に向上したという。

 しかし、freeeだけでは対応できない業務もあった。在庫管理や受発注システムなど、業務の根幹を支えるシステムの構築には、サイボウズの「kintone」を活用した内製開発を選択した。kintoneは、ノーコードで業務のシステム化が行えるSaaSだ。

 「取りあえず、やってみる」精神が、ここでも生きた。「kintoneは取りあえずやってみるには良い手段です。ダメだったらすぐに作り直せばいい」と小林氏は語る。この柔軟な姿勢が、試行錯誤を恐れない社風を醸成していった。

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