リテール大革命

ドバイ「世界最大の靴専門店」が示す、これからの小売店の勝ち筋 総合型はもう限界か?がっかりしないDX 小売業の新時代(2/2 ページ)

» 2026年01月15日 07時00分 公開
[郡司昇ITmedia]
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アプリを起点に体験価値を提供する

 レベルシューズの真価は、物理店舗とデジタル技術のシームレスな統合にあります。2020年、シャルーブ・グループの最高変革責任者に就任したラニア・マスリ(Rania Masri)氏は、レベルシューズを「未来の店舗」の実験場として位置付け、大胆なDX戦略を推進しました。

 2020年にローンチされたレベルシューズのモバイルアプリは、同社のオムニチャネル戦略の中核です。湾岸協力会議(GCC)加盟諸国において、10倍に急増したオンライン購買に対応し、アプリは現在、同社のeコマース売り上げの80%を占めています。

 アプリの機能は購買だけにとどまりません。アプリには「限定コレクション(limited edition)の発表」「プライベートスイート(専用来店)予約」「VIP イベント」などの機能があります。

 物理店舗では、インタラクティブディスプレーが顧客の動きを追跡し、ミラーリングします。2020年のアプリローンチ時には、店舗全体をデジタルアートギャラリーに変貌させ、QRコードを通じてアプリから直接購入できる4日間限定の体験型イベントを実施しました。また、拡張現実(AR)やバーチャル試着機能も積極的に導入しています。

レベルシューズは「未来の店舗」という位置付けのもと大胆なDX戦略が進む(筆者撮影)

「買った後」まで設計する――付加価値サービスが生む競争優位

 レベルシューズの競争優位性は、商品の品ぞろえだけでなく、包括的な付加価値サービスにあります。

パーソナライゼーションハブ

 2020年に開設された「パーソナライゼーションハブ」は、レーザー彫刻、ハンドペイント、接着パッチ、金箔加工など、多様なカスタマイズ技術を提供しています。顧客は購入した靴だけでなく、他店で購入した製品も持ち込むことができます。

マーガレット・ダブス ロンドン ソールラウンジ

 世界的に著名な足の専門医マーガレット・ダブス(Margaret Dabbs OBE)氏が手がけるフットスパ「ソールラウンジ」は、2013年の開業以来、男女を問わず熱心なファンを獲得しています。

 英国健康ケア専門家協議会(HCPC)に登録された足の専門医が、最先端の設備を駆使して足のケアを提供しています。独自のアプローチが、靴を購入する顧客の足の健康をトータルでサポートしています。

その他のサービス群

 店舗内には「The Cobbler」(靴修理)や「Vogue Cafe」「男性向けグルーミングサービス」なども併設され、靴の購入から、メンテナンス、リラクゼーションまで、ワンストップで完結する顧客体験を実現しています。

 コンシェルジュチームによるパーソナルショッピングサービスは、グローバルな独占商品や限定品への優先アクセス、希少商品の調達代行など、VIP顧客向けのサービスを提供しています。

規模はまねるな、思想をまねよ――日本の小売が学ぶべきポイント

 レベルシューズの事例が日本の小売業に示唆するものは多いです。冒頭にも示しましたが、改めて整理しましょう。

 第1に「カテゴリー特化戦略の可能性」です。総合型から専門型への転換は、商品知識の深化とサービス品質の向上を可能にすることで、店舗を目的地化します。

 第2に「オムニチャネルの実現」です。単にECサイトを持つことではなく、デジタルとフィジカルが相互に補完し合う仕組みの重要性を理解できます。

 第3に「付加価値サービスによる差別化」です。商品だけでなく、その周辺体験全体を設計することで、価格競争と一線を画します。

 レベルシューズの戦略のうち、日本ですぐに応用可能な要素があります。

 まず、「専門人材による接客」の再強化です。日本には元々「おもてなし」の文化があり、商品知識を持つスタッフによる丁寧な接客は生活者から高く評価されます。総合型で薄まった専門性を、カテゴリー特化によって取り戻せる可能性があります。とはいえ、来店客数の少ない店舗では人件費が負荷となるので、オンラインビデオ接客などを併用することも手段の一つです。

 次に、「周辺サービスの内製化」です。靴売り場に足のケアサービス、化粧品売り場にスキンケアカウンセリングといった「購入+α」の体験設計は、日本の百貨店やドラッグストアでも展開しやすい施策です。やっている企業もありますが、目的地になるレベルのものは少ないという認識です。

 「アプリを起点としたVIP顧客との関係構築」も有効です。限定商品の先行案内や予約来店など、ロイヤル顧客への特別対応は、日本の小売でも実装可能な仕組みです。

 そのまままねしても機能しにくい要素もあります。9000平方メートル規模の単一カテゴリー店舗は、日本では現実的ではありません。ドバイ・モールは観光地として年間1億人超を集客する特殊な立地であり、その集客力を前提とした規模感です。日本では、より小規模な「編集型専門店」として、厳選されたブランドと深いサービスを組み合わせる方が現実的でしょう。

 レベルシューズは、小売業の未来がどこに向かうべきかを、実践を通じて示しています。それは、テクノロジーと人間的なサービスの融合、効率性と体験価値の両立です。日本の小売業界がこの事例から学ぶべきは、規模の模倣ではなく「専門性による目的地化」という本質的な戦略思想です。

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