「通勤地獄」がいつの間にか復活――山手線停電の混乱が突き付けた、日本の“働き方格差”働き方の見取り図(2/2 ページ)

» 2026年01月28日 08時00分 公開
[川上敬太郎ITmedia]
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出社回帰の裏で進む、従来の常識を覆す「働き手側の変化」

 1つ目に挙げた「現業職」についてはどうすることもできないものの、2つ目と3つ目に挙げた「必要性」と「スタンス」については、変わる余地があります。コロナ禍でテレワークが進んだのは、政府からの要請によって職場側に必要性が生じ、テレワーク導入が職場の都合とも合致したからです。

 ところが、コロナ禍が落ち着くと政府が出社削減要請を取り下げたため、職場がテレワークを推進する必要性は失われました。テレワークに切り替えたものの課題を感じた職場は出社回帰し、はなから出社一択の職場はテレワーク導入を断念して、気兼ねなく働き手に出社を強いることができるようになりました。

 こうした職場側の姿勢とは裏腹に、働き手を取り巻く環境は、すでにこれまでの常識を根底から覆すほどの変化に突入しています。こちらも3点挙げます。

 まず人口減少の加速です。厚生労働省の人口動態統計によると、人口減は年々拡大していて、年間100万人規模に迫る勢いです。

 定年後の再雇用制度などで働くシニア層が増えているとはいえ、最大ボリュームゾーンの団塊世代は75歳を超えています。これらの事実から今後、採用難はさらに深刻化し、これまで以上に、職場は働き手を選ぶ側から選ばれる側へと転換していく未来が推察されます。

 次に、共働き世帯の増加です。統計局が公表している労働力調査によると、就業者のおよそ6割は既婚者です。男女共同参画白書によれば共働き世帯は年々増え続けていて、2024年には約4分の3を占めるまでになりました。

 それに伴い家事や育児など、家でのオペレーションの担い手は男女のどちらか一方のみではなくなり、仕事と家庭の両立が重要な課題になっています。そんな“一億総しゅふ”(主婦・主夫)化が進む中で、柔軟な働き方の必要性は性別を問わず高まっています。

 最後は、収入源の多様化です。副業をタブー視する時代は、今や昔となりつつあります。都心に住みながら地方創生に貢献したり、スポットワークを利用したり、逆に専業禁止をうたう会社も現れています。

 職場と働き手の双方が副業への抵抗感を薄めるにつれて、いまの勤め先から受け取る給与のみを収入源とする構造は少しずつ崩れ始め、人材を1社が独占するのではなく、複数の職場で共有する資産と見なすケースが増えていく未来が推察されます。

photo03 働き手を取り巻く環境は変化している

働き方は変えられるのか――「職場都合型」から「働き手都合型」へ

 働き手を巡るこれらの状況変化は、職場に働き方の構造改革の必要性を生じさせるのに十分な理由となり得ます。厳しさを増す採用難に対処するには、働き手から選ばれるだけの魅力を職場が備えておかなければなりませんし、家庭と両立しながら成果を出せるような仕組みを作る必要があります。フルタイムを1と考えた場合の0.3や0.5といった、限られた稼働で関わる副業人材を戦力化する工夫も必要になります。

 その際、ネックになるのは「職場都合型のスタンス」です。「テレワーク不可」「勤務時間固定」「週40時間勤務」といったルールを一律に適用して働き手に合わせるよう求め、一部の人員だけ例外的に認めるような構造のままでは、一時しのぎにはなれど、職場内に不公平感が生まれ、やがて限界を迎えます。

 未来に向けて必要になるのは、個々の働き手の事情に合わせて、自由度高く勤務できるよう、職場都合型から働き手都合型へとスタンスを転換することです。

 これは、働き手から選ばれやすくなるだけでなく、テレワークが例外扱いされるような不公平感も解消されます。その上でしっかりと成果も高められるよう、働き方の構造改革に取り組むことが職場には求められます。

 それに対し、個々の働き手に求められるのは自立です。働き方が一律ではなくなり自由度が高まる分、職場は管理がしづらくなります。同僚たちの目がないのをいいことにテレワークでサボったり、上司からの指示をぼんやりと待ったりしていては、職場は安心して仕事を任せることができません。果たすべき役割や成果に責任を持って、業務を遂行するセルフマネジメント能力を備えている必要があります。

 職場と働き手は、激しい変化の渦中にあります。しかし、今の政治はそれらの変化をリードするのではなく、後追いしているように感じます。各政党の公約を見ると賃上げ、手取り増、週休3日といったキャッチーなワードが目に付きますが、すでに発生している個別課題への対処が中心です。

 それらも大切に違いはありませんが、働き方の未来像がどう変わっていくのかをビジョンとして示すものではありません。コロナ禍では政治主導で出社一択だった働き方の構造が根本的に変わる期待がありましたが、当時の機運は後退したまま今に至ります。

 働き手を巡る状況は、刻々と変化し続けています。運転見合わせに「朝から地獄」という悲鳴が上がる一方、軽やかに通勤混乱を回避する人もいる。職場の働き方格差を目の当たりにするたびに違和感が募ります。

 慣れ親しんできた就業スタイルを転換するのは大変で、出社一択の職場はお尻に火が付くまで現状維持し続けようとします。

 政治には未来に向けた働き方のビジョンを示してもらいたいところですが、1月19日の衆議院解散に関する会見で高市早苗氏が掲げたテーマは「自分たちで未来をつくる選挙」。働き方の未来は、職場と働き手が自分たちで創り出していくしかないのかもしれません。

著者プロフィール:川上敬太郎(かわかみ・けいたろう)

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ワークスタイル研究家。1973年三重県津市生まれ。愛知大学文学部卒業後、大手人材サービス企業の事業責任者、業界専門誌『月刊人材ビジネス』営業推進部部長 兼 編集委員の他、経営企画・人事・広報部門等の役員・管理職を歴任。所長として立ち上げた調査機関『しゅふJOB総研』では、仕事と家庭の両立を希望する主婦・主夫層を中心にのべ5万人以上の声を調査。レポートは300本を超える。雇用労働分野に20年以上携わり、厚生労働省委託事業検討会委員等も務める。NHK「あさイチ」「クローズアップ現代」他メディア出演多数。

現在は、『人材サービスの公益的発展を考える会』主宰、『ヒトラボ』編集長、しゅふJOB総研 研究顧問、すばる審査評価機構 非常勤監査役の他、執筆、講演、広報ブランディングアドバイザリー等に従事。日本労務学会員。男女の双子を含む4児の父で兼業主夫。


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