もっと働きたいけれど、労働時間規制があるので働きづらい――。
「静かな退職」や「残業キャンセル界隈」など、最小限しか働かない自由が注目される一方で、こうした声は、あまり注目されていないように感じます。「もっと働きたい」と考える人も、当然いるでしょう。
高市早苗首相は健康維持などを前提としつつも、労働時間の規制緩和を指示したとの報道も見られます。先の参議院選挙では、各党が「働き方改革」を一部見直す公約を掲げていました。
他方で、「もっと働きたい」という人の中には、仕事が好きで本心からそう思っている人もいれば、生活のために“働かざるを得ない”という人もいるはずです。
そう考えたとき、現在にわかに進んでいる「働き方改革」の見直し議論には、ある重要なポイントが見過ごされているように思えてなりません。どういうことなのか、具体的に考えていきましょう。
ワークスタイル研究家/しゅふJOB総研 研究顧問/4児の父・兼業主夫
愛知大学文学部卒業。雇用労働分野に20年以上携わり、人材サービス企業、業界専門誌『月刊人材ビジネス』他で事業責任者・経営企画・人事・広報部門等の役員・管理職を歴任。
所長として立ち上げた調査機関『しゅふJOB総研』では、仕事と家庭の両立を希望する主婦・主夫層を中心にのべ5万人以上の声をレポート。
NHK「あさイチ」「クローズアップ現代」他メディア出演多数。
働くことへの向き合い方は、人それぞれです。
仕事が嫌で仕方ないという人もいれば、仕事が好きで長時間働いても苦にならないという人もいます。
もっと働きたいと望む人が皆、仕事が好きで楽しんでいる人とは限りません。本当は仕事が嫌いでも、もっと働きたいと望む自己矛盾したケースもあります。より多くのお金を稼ぐ必要があるため、働かざるを得ない状況に置かれている人です。
自分が生活費を稼がなければ家族を養っていけない場合、いまの収入で足らないならば、もっと仕事をするしかありません。心から働きたいわけではなく、義務感や責任感からそう思っている、あるいは自身の意思による選択の余地すら与えられていない状況に置かれている人は一定数います。それは「働きたい」というよりは、「働かざるを得ない」というのが本心でしょう。
一方で、心の底から仕事が楽しくて仕方がないという人もいます。
例えば、新しい事業アイデアを思いついてワクワクが止まらない状況の人。すぐにでも企画書をまとめて出資者を募り、仲間を集めて事業を走らせたい思いに駆られ、日々ウズウズしていそうです。
そのようなテンションで仕事しているとランナーズハイのような状態になり、徹夜したとしても、どれだけ体が疲れていても働く幸せを感じられることもあります。
仕事を楽しいと感じている人は、時に労働時間の規制を邪魔に感じることがあるかもしれません。本心から働きたいと考えている人にとっては、時間を気にせず仕事できる環境が望ましいはずです。
意欲ある人には思う存分仕事に邁進(まいしん)してもらい、人手不足の解消に寄与してもらうことには一定の意義があります。もし、本心から働きたいと考える人だけ抽出して適用できるのであれば、労働時間規制の緩和も有効な選択肢の一つになるかもしれません。
手軽さの代償 休業手当トラブルが映す、スポットワークの構造的リスク
リベンジ退職、残業キャンセル界隈……雇用系バズワードに飛びついてはいけないワケ
「女性は管理職になりたがらない」は本当か? 昇進意欲を奪う、本当の理由
出社回帰、休暇も壁あり……働き方の「ニューノーマル」は幻だったのか?
全員が「一律週40時間」働く必要ある? “短時間正社員”が問い直す、職場の常識Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR注目記事ランキング