スマホ1つで「スキマ時間に働ける」便利な仕組みとして急拡大するスポットワーク。登録しているワーカーが1000万人を超えたとうたう大手事業者もあります。
自治体との連携が進む事例や、スポットワークをきっかけに正社員登用へとつながるケースも報告されるなど、単なるアルバイトや短期採用の手段にとどまらず、社会インフラの一つとしての役割を果たし始めているように感じます。
一方、急拡大の裏で、さまざまな課題も顕在化し始めています。怪しげな求人情報が掲載される問題や、現在は、仕事キャンセル時の休業手当をめぐる対応が注目を集めています。
手軽さを追求したはずの仕組みが、知らないうちに「働く人を守れない構造」になっていないか――。便利さと危うさが同居するスポットワークの“今”を考えてみたいと思います。
ワークスタイル研究家/しゅふJOB総研 研究顧問/4児の父・兼業主夫
愛知大学文学部卒業。雇用労働分野に20年以上携わり、人材サービス企業、業界専門誌『月刊人材ビジネス』他で事業責任者・経営企画・人事・広報部門等の役員・管理職を歴任。
所長として立ち上げた調査機関『しゅふJOB総研』では、仕事と家庭の両立を希望する主婦・主夫層を中心にのべ5万人以上の声をレポート。
NHK「あさイチ」「クローズアップ現代」他メディア出演多数。
これまでの経緯を整理すると、スポットワーク業界が拡大してきた背景には、大きく2つの流れがあります。1つは、2012年の労働者派遣法改正によって日雇い派遣が原則禁止になった影響。有料職業紹介免許も保持する従来の派遣事業者の中に、日々紹介へと業態変更するケースが見られるようになりました。
日々紹介とは、有料職業紹介事業者が短期間就業する働き手を求人企業にあっせんするサービスです。一般的にスポットワークと呼ばれる業態は、スマホアプリを通じて手軽に利用できる日々紹介事業を指しています。
学識者や人材サービス業界からは雇用主責任を負わない日々紹介事業者と働き手との間に支配従属関係が生じ、職業安定法で禁止されている労働者供給に該当しかねないなどの懸念が示されていました。しかし、日雇い派遣が原則禁止となった際に行政から合法との見解が示されました。
もう一つの流れは、新規参入です。インターネットサービスなどの異業種からの参入、スポットワークを始めるために起業した事業者の参入、既に他の人材サービスを提供していた企業が新規事業として立ち上げて参入したケースなどがあります。
特に業界の急拡大に寄与したのは、新規参入組の存在が大きかったと言えます。日雇い派遣の基盤を持っていた旧来の事業者よりも、むしろ労働者派遣の経験がなかった事業者の方が常識にとらわれず、柔軟な発想でサービスを構築し大胆に展開できた面があります。
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