チェーンストア企業にとって、運営の効率化やシナジーの創出は収益を左右する重要課題だ。例えばホテル業界では人件費率が売り上げの20〜40%を占め、飲食部門を含めると食材費と人件費の合計(FLコスト)が50〜60%に達する。
各店舗・各ホテルが個別に間接業務を抱えれば、人件費や管理コストが拠点数に比例して膨らみ、現場スタッフが接客に専念できなくなる。さらに業態をまたいだ顧客データの統合や、グループ全体でのシナジー創出も容易ではない。
「ロイヤルホスト」や「てんや」をはじめとする外食事業、そして「リッチモンドホテル」などのホテル事業を展開するロイヤルホールディングスもこうした課題を抱える企業の一つだ。ロイヤルHDでは、この課題に対してシェアードサービスによる間接業務の集約と、グループCRM(顧客情報管理)「MyROYAL」を軸にした顧客基盤の統合で対応している。
外食事業とホテル事業の強みをどう掛け合わせて、同じ経済圏として育てていくのか。ホテルから外食まで開発全体を統括する本山浩平執行役員に、グループ横断の成長戦略を聞いた。
本山浩平(もとやま・こうへい)1978年生まれ。2003年にロイネットホテルへ入社。2008年「リッチモンドホテルプレミア武蔵小杉」開業支配人。2016年ロイヤルホールディングス財務・IR担当。2021年にアールエヌティーホテルズ代表取締役社長に就任。2025年3月よりロイヤルマイナーホテルズ代表取締役社長を兼任。福岡県出身――リッチモンドホテルはロイヤルグループの一事業として、多店舗経営を前提にした間接業務の考え方や方向性をどのように考えていますか。
ロイヤルグループという単位で言えば、間接業務をシステム化していく方針です。私たちは多拠点でビジネスをしていますので、各拠点がホスピタリティをしっかり発揮できるところに専念できる環境を作っていくべきだと考えています。ですので、お店やホテルの現場で間接業務を抱えるよりも、基本的にはシェアードサービス側で間接業務を巻き取り、集約した上で効率化していく発想になります。
店舗単位で効率化をしていくと、拠点数分だけ掛け算になってしまいます。一度業務を集約し、効率化すべき場所を一箇所に寄せる。そうすれば、その一箇所を磨けばグループ全体に効くと考えています。
――ロイヤルグループは外食やホテルなど多業態で展開しています。グループのシナジーをどう生み出していきたいですか。
分かりやすいところだと、ホテルの中にロイヤルホストやシズラーが入っている形でシナジーがあると考えています。テナント同士だとなかなか連携が難しい部分もありますが、グループだからこそ、ホテルが求める朝食に合わせて、通常のレストラン運営とは少し違う形でも一緒に作り込めると思っています。
またレストラン事業に加えて、食品事業としてセントラルキッチンも持っています。そこで加工したものをホテルの朝食などに活用できるのも、グループならではのシナジーだと思います。
――グループの中で、ホテルの事業会社はアールエヌティーホテルズとロイヤルマイナーホテルズの2社があります。この違いは何でしょうか。
アールエヌティーホテルズは「リッチモンドホテル」と「THE BASEMENT」を運営している会社で、ロイヤルホールディングスの連結子会社になります。一方でロイヤルマイナーホテルズは2025年に設立した会社で、タイのマイナー・ホテルズという世界で現在640以上のホテル・リゾートやブランド・レジデンスを展開している会社と、50%ずつ出資して設立した合弁会社です。
そこで、「アナンタラ・ホテル&リゾート」「チボリ・ホテル&リゾート」といったラグジュアリーブランドや「アヴァニ・ホテル&リゾート」を、日本で一緒に展開していこうとしています。
――なぜ今、ラグジュアリー領域に踏み込む必要があるのでしょうか。
コロナ禍明け以降、ホテル事業は順調に拡大してきましたが、今後さらに成長させることを考えたときに、リッチモンドだけの領域での成長には限りがあると見ています。上の価格帯、ラグジュアリー領域はブランドが物を言う世界なので、当社がゼロからラグジュアリーホテルブランドを作るのは現実的ではありません。
だからこそ、既に世界でブランドを持っている会社と組んで、日本で展開するために、合弁会社を設立した流れです。
――マイナーホテルズは現時点でタイを中心に展開していますが、今後は日本国内が中心になるのでしょうか。
はい、日本での展開です。契約第1号は軽井沢で、2025年7月に発表しています。敷地は約4万平米で、51室のみという、いわゆるスーパーラグジュアリーの位置付けになります。
――会員制度やCRMはグループ内でどのように共有していますか。
グループCRMという形で、「MyROYAL」(マイロイヤル)という共通アプリを立ち上げています。サービス開始は2024年6月で、まずはロイヤルホストやてんやなどのブランドから導入しています。今後は対象ブランドを広げていく予定で、2026年以降にリッチモンドホテルでも運用開始予定です。
――ホテルの予約もアプリによって連携すると、どんなことが可能になりますか。
ホテルとの共通ポイント化が進めば、本当の意味でのグループシナジー、例えば相互送客がやりやすくなります。具体的には、ロイヤルホストは使っているけれどホテルは使っていない利用者に対して、クーポンや告知などで利用を促すことが可能になります。
ホテルは単価が高くポイントもたまりやすいので、ホテルでためたポイントをきっかけに外食へ行くといった回遊も起きやすくなります。外食は日常に近く来店頻度も高いので、顧客とのタッチポイントが多いという強みをどう生かして経済圏を作っていくかが、ロイヤルらしさになると考えています。
――金融やクレジットカードなど、いわゆる「経済圏」をさらに広げる構想はありますか。
現時点では、そこまでには至っていない認識です。ただ究極的には、いかに経済圏を作っていくかという発想自体は重要だと思っています。外食を持っていることで顧客接点を増やせる点は、ホテル単体では作りにくい強みです。ですので、そこを起点に広げていく余地はあります。
――客単価を上げるために、会員化やロイヤリティ向上はどう位置付けていますか。
会員を増やしていくことは重要です。リッチモンドホテルの会員制度である「リッチモンドクラブ」の会員は約140万人で、売り上げの35%を会員利用が占めています。ポイントプログラムなども含めて、会員顧客にしっかり訴求していく工夫が必要だと考えています。
ただ、単価を上げること自体を目的化するのではありません。本質的な価値を上げて、それに見合う対価をいただく考え方を大事にしています。今回のリッチモンドホテル浅草のリニューアルも、その価値向上の一つです(リッチモンドホテル浅草が「客室削減」の大胆リニューアルに踏み切ったワケ参照)。
――近年はアパホテルやドーミーインなど国内のホテルチェーンでも、ヒルトンやマリオットなどの外資ホテルチェーンのような上級会員制度を設ける動きが進んでいます。リッチモンドホテルにも同様のランク制度を設けているのですか。
現時点では、明確な上級会員制度はまだ作れていません。ただ、会員プログラム自体を少し変えていく動きを進めていきたいと考えています。
――なぜ、国内のホテルチェーンも上級会員制度を整える動きが出てきているのでしょうか。
やはり外資系の送客力は本当に強いです。例えばマリオットの会員制度である「Marriott Bonvoy」は会員数が世界2億人を超える規模まで拡大しており、その存在感自体が集客の土台になっています。そうした環境の中で、私たちが何をできるかを考えた時に、リッチモンドも創業時から会員プログラムを持っています。まずはその強化を改めて進めていく必要があるという問題意識があります。
――本山社長は、ホテル事業にいつから関わってきたのでしょうか。
私は「ロイネットホテル」に2003年にアルバイトとして入社しました。当時はパートナーと共にホテル事業をやっていた時期で、2004年の分社化を経て、リッチモンドホテル所属になった経緯になります。
――本山社長のキャリアの中で、ホテル市場の変化をどう見ていますか。
私が最初に働いたのは博多駅前のリッチモンドホテルでした。当時は料金の選択肢が実質的に7000円か8000円かというような世界だったのですが、今は価格環境自体が大きく変わっています。
また博多も、当時は利用者の100%がビジネス目的でした。今は半分がインバウンドの利用者になってきています。そういう意味でも、ここ数年で環境の変化は非常に大きいと感じています。
――ロイヤルHDの執行役員になったことで、今後はホテル以外の領域にも関わっていくのですか。
実は私は2025年12月から、ホテルだけではなく外食も含めて、グループ全体の開発や出店に関わる責任者になりました。今後はロイヤルホストをどう出店していくか、てんやをどう展開していくかといったことも含めて、提案や出店の戦略を合わせて考えていきたいと思います。
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