「予約を全て止めてください!」 老舗酒造で起きたミスから生まれた「日本酒」なぜヒットしたのか?(1/5 ページ)

» 2026年02月05日 07時30分 公開
[久保佳那ITmedia]

 「大変申し訳ございません……! 『酒々井(しすい)の夜明け』の今後の予約を全て止めていただけますか」

 2025年10月14日、千葉県酒々井町にある300年以上の歴史を持つ酒蔵「飯沼本家」は、緊迫感に包まれていた。加藤徹さんをはじめとした営業チームのメンバーは、同社の酒を取り扱う102店の酒販店に電話をかけ続けた。

「酒々井の夜明け」(画像:飯沼本家 公式Webサイトより)

 急きょ予約を取り止めることになった「酒々井の夜明け」は、飯沼本家が「年に一度の日本酒ヌーボー」として販売している、事前予約した人しか購入できない特別な日本酒だ。

 毎年11月7日の初搾り(その年に仕込んだ酒を初めて取り出す工程)の日に酒を瓶に詰め、夜を徹して出荷準備を行う。搾りたてを受け取るために、この日だけ全ての酒販店が車で酒蔵に集結する。そして、自店舗で予約した分を持ち帰って、すぐに店や個人に搾りたての酒を届けるという、特別な体制で消費者に届くのだ。

 酒々井の夜明けの予約を取り止める事態になったのは、なぜだったのか。飯沼本家の営業チームの加藤徹さんは、以下のように振り返った。

 「酒造りの責任者である杜氏(とうじ)がお休みの日、若手の蔵人が『酒々井の夜明け』を仕込んでいたタンクに、隣の普通酒のタンクに入れるはずだった醸造アルコールと精米歩合70%の蒸米を投入してしまいました。酒々井の夜明けは、6トンタンク×2本で仕込んでいたのですが、1本のタンクが出荷できない状態になったんです」

写真左:営業部長 金子英二さん、右:営業部係長 加藤徹さん(画像:飯沼本家提供)

 酒々井の夜明けは、日本酒の分類でいえば「純米大吟醸」であり、もっとも高級な分類となる。純米大吟醸の条件は「精米歩合(※)50%以下の米と米麹、水のみ」で造られていること。つまり、誤って醸造アルコールと精米歩合70%以上の蒸米が投入されてしまった時点で、純米大吟醸とは言えないのだ。

(※)精米歩合は原料で使っている米の精米の度合いを示す数値で、この数値が低いほどお米は精米されて小さくなる。そのため、原材料として多くの米が必要になり、価格も高くなる。

 「飯沼本家は酒造りの機械化を進めていますが、お米を入れる部分は人による手作業が必要になります。人が関わる以上、トラブルは起こり得るもの。とはいえ、よりによって『酒々井の夜明け』のタンクで起きてしまった。取り返しのつかない事態になったと思いました」

 トラブルが発覚した時点で、酒々井の夜明けの予約本数は1本目のタンクでなんとか賄(まかな)うことができた。しかし、酒々井の夜明けは発売後も予約が入る商品であるため、大きな機会損失となることは明らかだった。

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