酒々井の諸事情がヒットした理由は、失敗を隠さずにあえて表に出したことで、飯沼本家の誠実な姿勢が伝わったからだ。実は同社は、これまでも変化と挑戦を重ねてきた酒蔵でもある。
「数年前の台風で酒造の裏山が崩れた際には、開けた土地を利用してグランピング施設をオープンしました。コロナ禍で日本酒の需要が落ち込んだ時には、蔵の敷地内に本格的な日本料理店を開業しています。今回の件で、失敗を恐れて萎縮するのではなく、起きてしまったことをリカバリーし、プラスに変えていくことの大切さをあらためて感じました」
ピンチをチャンスに変える飯沼本家の姿勢は、今回の「諸事情」騒動でも発揮された。
「もちろんトラブルはないに越したことはありません。まだ経験の浅い若手の蔵人が起こしてしまったトラブルを、高い技術でカバーできる杜氏がいたからこそ、実現できたことです。そして、何かあった時に支えてくれる酒販店さんやお客さまがいることも実感することができました」
若手の蔵人たちは酒造り真っ盛りの今、蔵で酒造りに励んでいる。蔵としては今回のトラブルを厳しく咎めることはなく、「この経験を今後の酒造りに生かしてほしい」という姿勢で見守っている。「絶対にミスをしてはいけない」というプレッシャーではなく、「トラブルが起きても、技術とチームワークでカバーできる」という土壌があるからこそ、次世代の蔵人が育っていくのだろう。
多くの人の手によって商品化された「酒々井の諸事情」は、トラブルから生まれた原材料費と見合わない酒であるため、もう造られることはないという。トラブルを隠さず、商品として再定義したことで、物語として共有されていく――今日もどこかの酒場で、酒々井の諸事情の物語が語られていることだろう。
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