DXに対する傾聴の姿勢を整えた後で、ナニワが最初に着手したのは日常点検票のデジタル化だ。点検項目や作業内容は変えず、これまで紙にチェックを入れていた作業を、そのままタブレット上で行う形に置き換えた。
作業内容をなるべく変えないよう意識したが、導入初期は、現場から「本当に使いこなせるのか」「現場になじむのか」といった不安の声も上がった。特に年配の従業員からは「操作を覚えられるか分からない」「今まで通り紙のほうが安心だ」という率直な意見もあったという。
こうした不安に対し、プロジェクトのメンバーが意識したのは現場の声を拾い続けることだった。使いづらい点や戸惑い、不安の声をその場で否定せずに受け止め、改善要望として整理した。必要に応じて運用を微調整し、その内容を現場にフィードバックした。このプロセスを繰り返す中で、現場には少しずつ変化が生まれ始めたという。
特に製造現場の従業員とコミュニケーションを取っていた、渡部氏は以下のように当時を振り返る。
「プロジェクトメンバーを介さずとも、『隣のグループではもう使っているらしい』『この画面はこう操作すると楽だった』といった会話が自然に交わされるようになりました。導入当初は、他部署の取り組みが共有されることはほとんどありませんでした。同じツールを使い、同じ悩みを経験することで、うまくいった工夫を横に伝える土壌ができてきました」
DXの効果が最も大きく表れたのは、生あんの在庫管理だ。生あんは「社内での製造用」「顧客への出荷用」「加工して別製品に使用する用」など用途が複数に分かれており、1日のある時点で、社内で製造したあんの数量から、加工して別製品に使用する用と顧客への出荷用を差し引いた在庫数を把握する棚卸しを行う。
用途ごとに製造グループが異なるため、各グループの持ち出し内容を紙のメモで確認して、複数人で在庫数などを数え、帳票に記録。後で在庫数が理論値と合うかの確認作業を毎日行っていた。
人の手によるものなので、ミスも多く発生した。数え間違いによる作業のやり直し、在庫不足・過剰在庫から起こる製造計画のズレ、さらに棚卸しに時間がかかることによる品質低下といった問題にも発展した。
帳票の電子化に加え、業務工程そのものを見直した。棚卸し対象となる各製品にQRコードを発行。製造時や持ち出し時にQRコードを読み取り、カミナシ レポート上で数量を記録する運用へと切り替えたのだ。
在庫の見える化によって、数え間違いや在庫の過不足もなくなっていった。「導入前は毎日3人で3〜4時間費やしていた作業を、現在は1人が30分程度で完了できるようになりました」と加藤氏は話す。
同様の改善は、工場全体の日常点検や温湿度記録、定期点検などにも広がった。帳票を探して印刷し、手書きで記録していた作業がクラウド上で完結するようになり、現場の作業量は大きく減少したという。
その結果、1日に使用していた紙の量は従来に比べて約6割削減され、時間に換算すると年間で約700時間分の業務削減効果につながっている。時間が生まれたことで、これまで週休1日体制が続いていた繁忙期でも、2025年10月から週休2日制を実現。前年同期比130%の受注量に対応できる体制を築いた。
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