「詳しい担当者に代わります」と言われるまで、相手がAIだとは思わなかった――。
世界100カ国以上で導入されるクラウド型コンタクトセンター向けサービス「Genesys Cloud CX」を展開するGenesys(ジェネシス)日本法人の伊藤ポール・リッチー社長は、米国のレストラン予約での体験談を明かす。
すでに米国のコンタクトセンターでは、AIが生身の人間と思ってしまうほどの対話をしており、同社が定義する、AIが自律的に対応を完結させる「レベル4」のカスタマー体験が、日常になりつつあるという。
一方で多くの日本企業では、いまだに設定されたルールの範囲内で応答する「レベル3」にとどまっている。自動音声(IVR)の長い待ち時間が顧客を苛立たせ、現場のオペレーターは過酷な労働環境やカスタマーハラスメント(カスハラ)で疲弊しているのが現状だ。企業は、従業員の離職を食い止めるため、何とか負担を減らそうと躍起になっている。
この状況を打ち破る、生成AIの進化形として注目されているのが「エージェンティックAI」だ。自らツールを使いこなし、タスクを完遂する「自律的な行動力」を持つエージェンティックAIは、顧客のストレスとスタッフの負担を解消し、双方が心地よい「人間らしい体験」(HX、人間的体験)をどう作っていくのか。
伊藤社長に、人員不足、カスハラといった課題を解決し、日本企業が世界標準へと至るためのシナリオを聞いた。
――コンタクトセンター業務において、日本企業が抱えている課題はどんなところにありますか。
大きく2つあると考えています。1つ目は、コンタクトセンターに問い合わせてくるユーザーの低年齢化や多様化です。特に顕著なのが、いわゆるデジタル世代の広がりですね。
以前であれば電話で問い合わせることが中心だったユーザーとのやり取りが、メールやチャットに変わってきています。企業が、この変化をあまり認識していないことも問題だといえます。低年齢化を認識した上で、メールやチャットでのやり取りに対応しようとしているのか。投資も含めた経営判断や舵取りが求められています。
もう一つは、このような変化を受け入れた場合、オペレーターの仕事量や負荷が高まりますから、その負担をどのように軽減していくかという課題です。かなり改善されてはいるものの、コンタクトセンターは業務負荷の影響により離職率が高いなど、いわゆるES(従業員の満足度)がさほど高くない部門でした。
そのため、接客チャネルの多様化など業務変革を進めていく上で、いかにしてEX(従業員体験)も向上できるかが肝となります。CX(顧客体験)とEX向上という2つの課題を同時に解決していくことが、今の業界では求められているのです。
――オペレーターの採用難や離職率が高いのは、最近注目されているカスハラの影響も大きいのですか?
カスハラが大きな問題であることは間違いありません。先のEX向上の内容にも重なりますが、最近は企業側が「従業員を守る」という意識を強く持つようになってきました。そのような企業の姿勢を後押しするAIが出るなど、技術的な進歩も見られます。
例えば、過去の履歴から明らかにカスハラをしていることが疑わしい人物からの問い合わせがあった場合には、人ではなくチャットボットや音声AI、さらには自律的にユーザーに対応するエージェンティックAIなどによって、対応できるようになってきました。
――貴社はAIについて、どんな取り組みをしていますか?
当社は以前から、AI領域に積極的な投資をしてきました。現在では「予測」「対話」「生成」と3つの領域で、AIの機能やソリューションを開発し、Genesys Cloud CXにも実装しています。
例えば、前日に何らかの商品を購入したユーザーから、電話による問い合わせがあったとします。その問い合わせは、購入した商品に関するものである確率が高いでしょう。にもかかわらず、従来通りのIVRによる自動音声応答システムで対応していては、特にヘビーユーザーの場合には、一気に満足度が下がってしまいます。中にはイラッとする方もいるかもしれません。
ここで、予測型のAIが活躍することになります。CRM(顧客関係管理)や基幹システムとの連携など、事前にデータを蓄積しておくことは必要ですが、このようなデータを持っていた場合、そのデータに基づき「前日に〇〇という商品を購入した事実」や以前の購入履歴、コンタクトセンターとのやり取りから問い合わせ内容を予測してくれるのです。
――データ連携がされた上での対応なら、ユーザーのイライラは軽減されるでしょうね。
そうです。ユーザーから問い合わせる前に「昨日購入した商品の件でのお問い合わせですか?」と、こちらから呼びかけるのです。その上で、この予測が合っていたら、次のステップは、その商品に詳しいオペレーターにつなぐ。新たな商品や機能追加の問い合わせだと判断した場合には、より上位のものを提案するアップセル対応が得意なオペレーター、あるいはその先の営業担当につなげるのです。
――つまりAIをコンタクトセンター業務に活用すると、これまではオペレーターの知識や経験年数により対応が異なっていたものが、平準化されるということですか?
ええ。例えば、知見が乏しいオペレーターの場合には、AIがUI上にバディ(相棒)やコパイロット(副操縦士)として登場します。まさに自律的にオペレーターをサポートするのです。
例えば、お客さまとオペレーターの会話をリアルタイムでテキスト化して、質問に対する推奨回答を表示したり、次に必要なタスクを出したりしてお客さまの課題を解決します。会話が終了した後には、その内容を要約して履歴に残すなど、オペレーターをサポートします。
当社では、生成AIからエージェンティックAIへ移行するだけでなく、ユーザーの意図を理解して具体的なタスクや行動を自律的に実行する「大規模アクションモデル」(LAM、Large Action Models)を組み合わせることで、さらに自律的に処理できる範囲を広げようとしています。
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