ここ数年でスポットワークは急速に浸透しました。学生からシニアまで、スキマ時間に働きたいと考える幅広い層から支持を集め、社会インフラのような存在になりつつあります。
また、慢性化する人手不足を背景に、急な欠員補充などに悩む企業や店舗にとっても重宝する存在になっています。飲食や物流など、特に人手不足が進む業界からは「スポットワークがなければ業務が回らない」といった声もあります。
しかし、このような急拡大の陰でさまざまな問題も指摘されてきました。求人の直前キャンセルをめぐっては訴訟も起きており、利用企業側に休業手当の支払いが命じられた事例も生まれています。
こうした状況を受け、業界団体であるスポットワーク協会は2026年3月、スポットワークサービスの適切な労務管理に向けた考え方を改訂しました。5月以降、可能な限り速やかに必要な対応を進めていくとしています。
今回の改訂は、企業のキャンセル対応や雇用責任の在り方を改めて整理するものであり、従来通りの運用を続けている企業にとっては、思わぬコスト増やトラブルを招くリスクを孕(はら)んでいます。
サービスの急拡大にルール整備が追いついていない様子がうかがえる中、スポットワークで働くワーカーや利用企業にとってはこれから何が変わり、どのような影響を受けることになるのでしょうか。備えるべきポイントを整理します。
ワークスタイル研究家/しゅふJOB総研 研究顧問/4児の父・兼業主夫
愛知大学文学部卒業。雇用労働分野に20年以上携わり、人材サービス企業、業界専門誌『月刊人材ビジネス』他で事業責任者・経営企画・人事・広報部門等の役員・管理職を歴任。
所長として立ち上げた調査機関『しゅふJOB総研』では、仕事と家庭の両立を希望する主婦・主夫層を中心にのべ5万人以上の声をレポート。
NHK「あさイチ」「クローズアップ現代」他メディア出演多数。
スポットワーク協会は2025年7月に「スポットワークサービスにおける適切な労務管理へ向けた考え方」を公表しました。この中で、労働契約成立後の解約について整理しています。当時のリーフレットでは、利用企業側からの解約については「原則不可だが解約可能事由に該当する場合に解約可能(休業手当の支払い不要)」となっていました。
具体的には、以下の「1〜11」のいずれかに該当する場合は休業手当の支払いが不要との見解が示されていました。
1.不可抗力その他の事由(地震や台風などの天災事変等)が生じた場合
2.長期療養や逮捕・勾留などにより、就労日に出勤できないことが明らかな場合
3.就労に必要な資格証明がない場合、法令上就労させることができない場合、その他法令の趣旨に照らして就労に必要な条件を満たさない場合
4.契約上の義務違反又は不法行為、犯罪行為等の反社会的行為を行った場合
5.募集条件で明示されている勤務態度にかかる条件を満たさないことを使用者が確認した場合
6.募集条件で明示されている同種業務の経験等、使用者が求める条件を満たさない場合
7.募集条件で明示されている持ち物に不備がある場合
8.募集条件で明示されている髪色・長髪・服装などの身だしなみについて、使用者が求める条件を満たさない場合
9.天災等の不可抗力によらない営業中止の場合
10.大幅な仕事量の変化に伴い募集人数の変更が必要となった場合
11.掲載ミス(業務内容や日時の誤り)があった場合
しかし、2026年3月の改訂では「労働契約成立後、使用者からの解約は原則として認められません」と赤字で明記されました。改訂前に記載されていた解約可能事由については、改訂前の「1〜8」に準じた5項目を挙げつつ、解約可能と言い切ることはせず「一般に解約の合理性・相当性が認められるものと考えられる」と、表現が大幅に和らげられました。
改訂前の解約可能事由として挙げられていた「9〜11」は、問題が多いと指摘されていた項目でした。
スポットワークで働こうとワーカーが就業日に向けて準備を整えていたとしても、24時間前までに募集企業が「掲載ミスでした」と申し出れば、休業手当の支払いなしでキャンセルできていたことになります。
スポットワーク協会が3月に行った改訂は、極めて真っ当な軌道修正だと言えます。改訂前の解約可能事由を問題視する声が多かったとはいえ、急速に事業が拡大している中で、自ら軌道修正するのは簡単なことではありません。
スポットワーク業界の内部からも問題視する声は聞かれましたが、組織に所属しながら方針に異を唱えるのはとても勇気がいることです。今回の軌道修正の陰では、それら勇気ある人々と、その声を汲んだ意思決定権者による英断があったと考えられます。
手軽さの代償 休業手当トラブルが映す、スポットワークの構造的リスク
忘年会の繁忙期でも「回る店」は何が違う? 串カツ田中の人材育成を変えたテクノロジー活用
“自社タイミー”を独自開発→人手不足を劇的に解消 サラダ専門店が生み出した、すごいアプリの正体Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR注目記事ランキング