コロナ禍で売り上げが6割まで落ち込む中、タクシー会社の日栄交通(さいたま市)が新たに始めたのは、きくらげ栽培だった。空き駐車場を活用した新事業で、現在は菌床約3000床規模で運営。
販路は卸が8割、直売が2割で、月150万〜180万円を売り上げる。成功の背景にあるのは大きな新規投資ではなく、既存資産の使い方を見直した点にあった。常務取締役の清水健一郎氏に話を聞いた。
新型コロナウイルスの感染拡大は、多くの企業に事業の見直しを迫った。中でも影響が大きかったのが、移動需要に依存するタクシー業界だ。1971年創業の日栄交通も例外ではなかった。
緊急事態宣言が発令されると、主力である夜間の繁華街需要がほぼ途絶えた。週単位の売り上げは前年比7〜8割減、月単位では6〜7割ほどの落ち込みが続いた。
タクシー業界はもともと利益率が低い。一般的に経常利益率は業界平均で1〜2%とされる。運賃は規制されており、価格での差別化は難しい。乗務員の給与は歩合制が主体で、売り上げに応じて人件費も変動する。
日栄交通では乗務員への歩合を比較的高めに設定しているため、売り上げの増減に人件費も連動する。そのため、売り上げが伸びても利益が大きく膨らみにくく、利益率は業界水準と同等に落ち着く。売り上げ減少時でも大幅な赤字にはなりにくい一方、売り上げが伸びても利益が残りにくく、コスト削減の余地も限られることから、利益を積み上げにくい構造にあった。
こうした制約の中で、清水氏は配車システムの導入や観光送迎サービスの開始、買い物代行や飲料メーカーとの提携による車内販売など、売り上げにつながる施策を次々と打ち出してきた。
これらの発想の背景には、清水氏の経歴がある。入社前は音楽活動に取り組みながら建設業に従事し、基礎工事や内装工事など幅広い現場を経験。さらに自身で原状回復工事の会社を立ち上げ、施工から運営までを担ってきた。
転機となったのは2011年、祖父の病床に呼ばれた時のことだ。家業を継ぐつもりはなかったが、その場で託される形となり、日栄交通に入社した。
現場と経営の両方を経験してきたことが、既存の枠にとらわれず事業を組み立てる発想につながっている。買い物代行や飲料メーカーとの提携といったアイデアも、異業種出身者だからこそのものだ。こうした取り組みの積み重ねは、社内の空気も変えていった。「また常務が何か始めた」と半ばあきれつつも、見守る雰囲気が広がっていたという。
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