慶應義塾大学法学部政治学科卒業(首席)、同大学院法務研究科修了後、2012年司法試験に合格。複数法律事務所で実務経験を積んだ後、2015年佐藤みのり法律事務所を開設。
社員の勤務中の離席を、企業はどこまで把握するべきか――。大手部品メーカーの子会社で、ある社員に対して自席を離れた時間や理由を分単位で記録させ、トイレ利用についても「大・小」や所要時間まで記載させていたことが明らかになった。
会社側は「必要な労務管理」と説明する一方、社員は「苦痛だ」と訴えており、適正な管理と過剰な監視の線引きが問われている。
労務管理の一環として、従業員の業務状況を把握する取り組みは一般的だ。しかし、生理現象という私的な領域にまで踏み込む管理は許されるのか。
リモートワークの普及などを背景に「見えない働き方」の管理の在り方が課題となる中で、企業はどこまで従業員の行動を把握すべきなのか。事例を基に、適正な労務管理と過剰な監視の境界線について、佐藤みのり弁護士に聞いた。
――業務時間中の「離席」を分単位で記録させることは、法的に「適正な労務管理」の範囲内と言えるのでしょうか。
従業員の業務時間中の離席を会社側が分単位で記録したり、記録するよう従業員に求めたりすることは、基本的には法的に問題ないと考えられます。
離席の多い従業員がいると職場に不公平感が生じ、周囲の従業員の不満が高まり、職場全体の士気が下がるリスクもあります。会社はこうした問題を放置すべきではなく、一定の労務管理を行う必要があると言えるでしょう。
法的にも、労働者は労働時間において、職務上の注意力の全てを職務遂行のために用い、職務にのみ従事しなければならない「職務専念義務」を負っています。短時間の離席であれば、通常、職務専念義務違反は問題になりません。しかし、例えば1回の離席時間が5分であったとしても、1日のうちに10回ほど離席が認められた場合、1日50分ほど職務に従事していないことになります。
会社としては、従業員の離席時間や頻度を正確に把握した上で、合理的理由のある離席なのかどうかなど、従業員への聴き取りを実施し、事実関係を確認。職務専念義務違反に当たるかどうかを判断する必要があります。事情によっては、注意や指導をして従業員がそれに従わない場合、就業規則に基づき懲戒処分を下すことも選択肢に入ってきます。
したがって、離席の多い従業員について、分単位で離席記録を取ったり、従業員自身に離席記録を取らせたりすることは、会社が適切な労務管理を行う前提として必要となる場合があり、一般的には認められています。ただし、離席記録の取り方などによっては、従業員の人権侵害につながることもあるため、必要性に見合った相当な方法にとどめることが重要です。
――生理現象というプライベートな領域に踏み込んだ指示は、プライバシー侵害に当たらないのでしょうか。
仮に、トイレへの離席の際「大・小」の区別を含めて記録し、提出するよう指示がなされたのだとすると、法的に問題になる可能性があります。トイレの「大・小」などは一般的に他人に知られたくないと感じる人が多く、プライバシー性の高い情報とも考えられ、会社がその記録や提出を求めれば、従業員のプライバシーに過度に干渉することになりかねません。
プライバシー性の高い詳細な情報を得なくても、適切な労務管理は可能です。離席が多い理由・背景について、当事者から十分に聴き取りをして、合理的理由のある離席なのかどうか判断しましょう。
――今回の「トイレ管理」の事例はパワハラと認定される可能性がありますか。
厚生労働省の「職場におけるハラスメント関係指針」によると、パワーハラスメントとは「職場において行われる、1.優越的な関係を背景とした言動であって、2.業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、3.労働者の就業環境が害されるものであり、1から3の全ての要素を満たすもの」とされています。
そして、2.業務上の必要性や相当性については、問題となった言動の目的、経緯、状況、態様、頻度、継続性、言われた側の従業員の属性や心身の状況、行為者との関係性などを総合的に考慮して判断されます。
また、パワハラには、典型的な6類型があります。「1.身体的な攻撃」「2.精神的な攻撃」「3.人間関係からの切り離し」「4.過大な要求」「5.過小な要求」「6.個の侵害」です。
「6.個の侵害」とは、従業員のプライバシーに干渉することであり、先述の通り、労務管理上の必要性が高くないにもかかわらず、トイレの「大・小」について記録し、提出を求めたのだとすると、個の侵害型のパワハラに当たる可能性があります。
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