KDDI子会社「売上の99.7%が架空」 不正を暴いたのは“社長の直感”、実はこれこそ問題なワケ古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(1/3 ページ)

» 2026年04月10日 06時00分 公開
[古田拓也ITmedia]

筆者プロフィール:古田拓也 株式会社X Capital 1級FP技能士

FP技能士センター正会員。中央大学卒業後、フィンテックスタートアップにて金融商品取引業者の設立や事業会社向けサービス構築を手がけたのち、広告DX会社を創業。サム・アルトマン氏創立のWorld財団における日本コミュニティスペシャリストを経てX Capital株式会社へ参画。


 KDDIの子会社で発覚した巨額の不正会計は、数十万円の赤字から始まった。

 2018年、KDDIの孫会社であるジー・プランの一社員が、自ら立ち上げた広告代理事業の業績不振に焦りを感じていた。売り上げ目標は数千万円単位で未達。このままでは事業ごと撤退させられる。その恐怖に駆られた社員が手を染めたのは、広告主からの委託が存在しないにもかかわらず、あたかも案件があるかのように装った「架空循環取引」だった。

 それから約7年。2026年3月31日にKDDIが公表した特別調査委員会の報告書は、衝撃的な事実を明らかにした。子会社ビッグローブおよびジー・プランの広告代理事業における売り上げのうち、実に99.7%が架空だったのだ。累計の売り上げ取消額は2461億円、グループ外部への資金流出額は329億円に上る。

累計の売り上げ取消額は2461億円、グループ外部への資金流出額は329億円に上る(KDDI特別調査委員会の報告書

 この巨額不正を主導したのは、わずか2人の社員だった。

 なぜ、時価総額11兆円超の通信大手で、たった2人の社員による不正が7年もの間、誰にも見抜かれなかったのか。報告書を読み解くと、そこには個人の犯罪を超えた、日本の大企業が構造的に抱える「子会社管理の死角」が浮かび上がってくる。

「数十万円の赤字」が「2461億円の架空売り上げ」に膨らむまで

 事の始まりは、驚くほど小さなことだ。

 報告書によれば、ジー・プランの元従業員a氏は2017年ごろ、同社で広告代理事業を立ち上げた。Web広告の仲介ビジネスで、上流の広告代理店から受けた案件を下流の代理店に再委託し、成果件数に応じた手数料を得るモデルだ。しかし、事業は当初の想定を下回り、数十万円の赤字と数千万円単位の売り上げ未達が見込まれていた。

 売り上げと利益を改善できなければ、事業そのものが撤退に追い込まれる──a氏の焦りは切実だった。そのような状況の中、赤字を補填(ほてん)し、売り上げ目標を達成するために考え出したのが、架空の売り上げ計上だった。遅くとも2018年8月から、実体のない循環取引が始まる。

 循環取引の仕組みはこうだ。

 広告主からの実際の委託がないにもかかわらず、架空の広告掲載業務を受発注することで報酬を循環させる。各段階で手数料が差し引かれるため、不正を隠すためには次のサイクルで前回の支払額に加え、手数料分をさらに上乗せした金額を受発注して案件を回す必要がある。雪だるま式に不正金額が膨らんでいく構造だ。

 巧妙だったのは支払サイト、つまり決済までのタイムラグを利用した点だ。ビッグローブや一部の下流代理店が短い支払サイト(今回の場合は15日)で「先出し」することで、循環させる金銭の原資を確保していたという。この仕組みにより、外部からの新規資金を持ち込まなくても、一定期間は取引を回し続けることができた。

支払サイトの差異を利用とした取引継続のイメージ(KDDI特別調査委員会の報告書

 2023年3月期以前の累計で売り上げ取消額は417億円だったが、2025年3月期には単年で824億円、2026年3月期は第3四半期までの9カ月間だけで676億円に達している。外部流出額も、2023年3月期以前の17億円から、直近2年間だけで計276億円へと爆発的に増えた。影響額全体の約85%が最後の2年間に集中している。

 小さな赤字の穴埋めが、制御不能になった。a氏は報告書の中で「金額が雪だるま式に増えていく中で、本件架空循環取引を止められなくなった」と述べている。

外部流出額は2023年3月期以前の17億円から、直近2年間だけで計276億円へと爆発的に増加していた(KDDI特別調査委員会の報告書
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