KDDI子会社「売上の99.7%が架空」 不正を暴いたのは“社長の直感”、実はこれこそ問題なワケ古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(3/3 ページ)

» 2026年04月10日 06時00分 公開
[古田拓也ITmedia]
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「怖い」――不正を暴いたのは“社長の直感” これこそ問題なワケ

 皮肉なことに、この巨額不正を最初に嗅ぎ取ったのは、内部監査でも会計監査人でもなく、トップの“直感”だった。

 2025年2月以降、KDDI経営戦略会議において、高橋誠会長(当時は代表取締役社長)がビッグローブの広告代理事業について、コンプライアンスリスクへの懸念を表明した。「あまりにも伸びているので怖い」「通信より大きくなっている。事業として指標で管理していることを見せてほしい」といった生々しい発言も報告書に記載されている。高橋氏はさらに、「これだけ伸びているといつか何かが起きるかもしれないので注意してほしい」と述べた。

 この指摘を受け、監査役は会計監査人と協議を開始。ビッグローブへの子会社監査に向けた予備調査が動き出す。そして2025年には会計監査人から「架空循環取引の可能性あり」との指摘がなされ、KDDI監査役をトップとする社内調査チームが組成された。

 2025年11月、KDDIからビッグローブに対し、広告代理事業の取引額を抑制するよう指示が出され、ついにa氏が架空循環取引の事実を自認し、7年に及んだ不正が終わりを迎えたという流れだ。

 SNSでは高橋会長の先見性に対し「切れ者すぎる」「これぞ経営者の仕事」と称賛の声が相次いだ。

 だが、この事実はむしろ批判されるべきことではないか。会長の直感がなければ発覚がさらに遅れた可能性があるという事実こそが、形骸化したガバナンスの脆弱(ぜいじゃく)さを物語っている。

「非通信」への多角化が生んだ死角

 本件を単なる「悪い社員が不正をした」という個別事案として片付けるべきではない。

 KDDIは近年中期経営戦略で「サテライトグロース戦略」を掲げ、通信を軸にしつつ非通信領域への事業拡大を加速させてきた。金融、エネルギー、DX、そして買収したビッグローブを通じたインターネットサービスの拡充などの多角化戦略そのものは合理的に見える。しかし、非通信事業の知見が社内に乏しい状態で子会社を増やすことの危うさも浮き彫りとなった。

 事業領域が広がるほど、親会社が各事業の「勘所」をつかむことは難しくなる。本業では当たり前に機能するチェック体制が、知見のない分野では形骸化する

 特に、今回のような広告事業を巡っては、元手が少なくても気軽に始められるビジネス領域である反面、入金タイムラグや情報の非対称性を悪用した不正事例が後を絶たない。

 近年では東証グロース市場に上場してわずか半年で粉飾決算が明らかになり約10カ月で上場廃止となったオルツ社の事例が記憶に新しい。プロの証券会社や監査法人でも広告代理店の粉飾が見抜けないケースが多発しており、手口も巧妙化している。

参考:オルツの粉飾決算 見抜けなかった東証・証券会社の「重い責任」

 報告書は再発防止策として「知見が乏しい事業への理解促進」「リスク感度の強化・向上」を挙げているが、これはKDDIに限らず、非通信領域への進出を急ぐ通信大手、あるいはM&Aで事業ポートフォリオを拡大するあらゆる企業が胸にとどめておくべき内容だ。

 KDDIの連結業績に対する本件の影響は、売上高ベースで約1%と限定的ではある。しかし、のれん減損などを含む営業利益への影響額は累計1500億円を下らない。それだけでなく多角化が進む企業のガバナンス形骸化に伴う他事業での突如の損失発生リスクも脳裏によぎる。

 高橋会長の「怖い」という一言は、2461億円に上る虚構を崩壊させるきっかけとなった。だが、この直感をシステムとして組織に埋め込めなかった7年間の空白こそが、本件の本質的な問題なのである

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