2社間の請求書のやり取りには「発行」「受領」「入金」「出金」(支払い)という4つの動作がある。Bill Oneはもともと、請求書受領の領域で強いシェアを持ち、そこに入金消込(Bill One Bank)と請求書発行機能を順に積み上げてきた。今回の振込手数料無料化で支払いもBill One Bankに集約されれば、4つのうち埋まっていなかった最後のピースがそろう。一つの取引に関わる情報が、発注側・受注側の両方で全てBill Oneの中に蓄積される構造ができるわけだ。
データがそろう意味は、業務効率化にとどまらない。笠場氏が見ているのは、その先の「予測」である。
請求書のやりとりの蓄積と入出金の実績を重ね合わせれば、2〜3カ月先までのキャッシュフローがリアルタイムで見通せる。入金を少し早める、出金を少し遅らせる──短期的な資金繰り調整やファクタリング、レンディングといった「攻めの経理」を、Bill Oneが提案できるようになる、というのが構想だ。
もっとも、この絵はまだ実装に落ちていない部分が多い。FBデータの自動連携も、キャッシュフロー予測も、現時点では機能として提供されていない。いま動いているのは入金消込と振込手数料無料化という、実務の負担に直結する部分に限られる。
それでも、データの受け皿となる構造が、今そろった点に意味がある。次の競争は、プロダクト機能ではなく、この土台の上で戦われる。
Bill Oneの特徴は、ユーザーだけでなくその取引先までがネットワークに取り込まれている点にある。取引先企業は、Bill Oneの画面から請求書をアップロードするか、メールで送信するだけで送付が完了する。有料契約ではないが、Bill Oneのレールの上に乗っている状態だ。Sansanが「インボイスネットワーク」と呼ぶこの構造は、2026年2月末時点で約25.8万社、ネットワーク上の請求書金額は同月実績の年換算で約65兆円に達している。
ここにBill One Bankが加わる意味は大きい。これまで請求書というドキュメント中心だったネットワークに、お金の流れが重なる。発注側の支払いと受注側の入金が同じプラットフォーム内で完結すれば、取引一件ごとにドキュメントと決済がひも付いたデータがたまっていく。
ここで「ネットワーク」の中身を整理しておきたい。Bill Oneのネットワークが単なる中央集権型のハブ&スポークと違うのは、参加企業が複数の役割を行き来する点にある。A社はB社へ請求書を送る側だが、C社からは受け取り、D社には支払いをする。同じ企業が「発注側」と「受注側」を兼ねながら、ネットワークの中で網目状につながる。取引先がすでにBill One上にいれば、新しい取引でも即座に連携でき、データの突合精度も上がる。使う企業が増えるほど、参加者一人当たりの価値が上がる──古典的なネットワーク効果である。
最終形態として笠場氏が描いているのは、日本の企業間取引の基幹インフラだ。25.8万社、年65兆円というインボイスネットワークの規模に、入出金まで含めた決済データが乗る。電気やガスのように、企業活動から外せない存在になる。そこまで行けば、競合がプロダクトの機能で追いついても、企業はBill Oneを使い続ける。それが「ビジネスインフラ」という言葉の中身である。
競合として思い浮かぶのはインフォマートのBtoBプラットフォームだ。請求データの送受信で近い領域にいるが、デジタル前提で築かれた同社のネットワークに対し、Bill Oneは紙やメールも吸収しながら裾野を広げてきた。そこに入出金まで乗れば、単なる請求書の中継所ではなく、取引そのもののインフラに近づく。
「ビジネスインフラになり、お客さまが使わざるを得ない状況を作れるのではないか」(笠場氏)。取引先まで巻き込んだワークフローの深さは、プロダクト機能とは違う層の参入障壁になる。AIには、人間同士・企業同士の関係性は崩せないからだ。
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