「中東情勢は日々変化しており、会計年度を通して合理的な影響を織り込むことが困難だ」――鉄鋼大手JFEホールディングス(以下、JFE)の田中利弘執行役員副社長は、5月8日の決算記者会見でこう述べた。
JFEスチールを傘下に収める同社は、自動車や建設向けに鉄鋼製品を供給する業界大手だ。2026年3月期連結決算における純利益は、中国経済の減速や各国で広がる保護主義の動きを受けて前期比23.6%減となる約701億円だった。
2027年3月期の純利益は1500億円を掲げるが、ここに中東情勢の影響は織り込めていない。“中東リスク”が長期化した場合、同社は「月100億円のコスト負担」が生じると試算し、原油価格の変動を受けてさらなるコスト増加もあり得ると見込む。
JFEは、この難局をいかにして乗り切るのか。コスト試算の内訳と対策に迫る。
JFEが試算した「月100億円のコスト負担」という金額は、原油価格の指標「WTI」が1バレル当たり100ドル程度で推移した場合の試算だ。2027年3月期の純利益予想は、中東情勢が緊迫化する前の1バレル60ドル前後を基準にしており、その価格差がコスト負担として現れるという。
「鉄鉱石や燃料炭を船で運んでいるため、『バンカー』(船舶用燃料)の価格上昇によるコスト影響が大きい。それに並んで(鉄鉱石を溶かして鋼を取り出す高炉を動かすための)電力やガスなどエネルギー関連費の影響も大きい」(田中副社長)
燃料だけでなく石油製品の不足も深刻だ。製鉄現場を支える塗料や潤滑油、シンナーなどの調達難が現実味を帯びている。これらの枯渇が、最終的な製品出荷を阻むボトルネックになりかねない。現時点で製造ラインが止まることはないが、安定的に調達できなければ一部製品の生産に影響するリスクがあると田中副社長は説明した。
この他、原油や天然ガスの輸送・貯蔵に使うパイプの中東向け出荷が滞る可能性があるものの、全体に占める割合が小さいため影響は限定的だという。
中東情勢を踏まえた経営方針について田中副社長は「状況変化に適切に対応し、大幅に上昇したコストは速やかに価格転嫁を図る」と話した。
同社は既に、鋼材価格の引き上げに取り組んでいる。3月には家電などに使う「薄鋼板」や造船向けの「厚鋼板」の価格を1トン当たり1万円引き上げた。鉄鋼原料や燃料炭の価格上昇の影響を抑える狙いがあり、中東情勢のコスト負担も価格転嫁によって吸収したい考えだ。
田中副社長は「1万円の値上げを何としても完遂しなければ、収益性が低いままになってしまう。『必ず成し遂げる』という気持ちで取り組んでいる」と強調した。国際情勢が不安定化する中、鉄鋼大手の意地を見せられるか。
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