中東情勢の緊迫化が、企業の屋台骨を揺るがしている。ナフサをはじめとする石油由来の供給が滞るなど「原材料や部材を入手できない」「在庫が尽きる」「価格が高騰する」といった懸念が広がり、事業継続を脅かしかねない状況だ。
今、調達部が取るべき対応は何か。大日本印刷(DNP)で22年にわたって調達業務に携わり、調達戦略の立案やサプライヤーマネジメントなどを手掛ける天野菜美氏(購買企画部 部長)は、5つの対応事項があると助言する。
加えて天野氏は「ピンチがチャンスなんです」と語る。その真意はどこにあるのか。
本稿は、NTTデータグループの総合コンサルティング会社、フォーティエンスコンサルティング(東京都千代田区)が4月16日に開催したセミナー「大日本印刷様の事例から見るサプライヤーマネジメントの新潮流」を取材したもの。
「2026年度は、苦難の始まりでした。中東情勢の緊張が高まり、材料の供給が難しい毎日です。ニュースで『サプライチェーン』『ナフサ不足』に触れない日はありません。こうした中、DNPも何とか、さまざまな工夫で調達を達成しようとしています」(天野氏)
同氏は、調達担当者がすぐ対応すべきこととして、5つの事項を挙げる。
天野氏が「最低限取り組むべきこと」と断言するのが、次のプロセスだ。
既存サプライヤーから調達ができない場合は、他社を当たるしかない。今回の中東情勢においては、国内全体で材料が不足しているため、海外の調達先を検討する必要がある。
「商社や自社の海外駐在員を頼って、どのような取引先があるか確認します。同時に、過去の取引先評価表を出して『自社が過去に検討した企業はどこか』『もう一度コンタクトを取れるか』を調べる必要があります」(天野氏)
海外サプライヤーへの切り替えを検討し始めるタイミングで、調達部と事業部で密にコミュニケーションを取ることが重要だと天野氏は言う。
非常時の調達のため「どこまでの品質を求めるのか」「必要最低限の数量はいくつか」などを話し合う。得意先へのアロケーション(配分)も踏まえて判断する必要がある。
調達部には「インテリジェンス機能」(情報収集・分析能力)も求められていると天野氏は指摘する。国内外の複数メディアを確認するなど、多様な情報ソースを横断的に分析して「今何が起きているのか」「調達環境がどう変わるのか」を見極めて対応する。
「私は、生成AIを活用して海外メディア――『Bloomberg』『Al Jazeera』『Reuters』『The Hindu』などを確認しています。国内メディアの国際報道なども活用して、調達環境の変化と対応策を事業部に提案しています」(天野氏)
調達部を取り巻く環境は厳しいが、天野氏は「ピンチはチャンス」でもあると説く。
「この状況を機会と捉えた戦略的対応も重要です。営業担当と会話して販売価格の適正化に取り組む、あるいは『特別採用』を視野に入れた部材の仕様やスペックの見直しを進める。コスト競争力や品質に優れた新規サプライヤーへの切り替えも検討します」(天野氏)
もう一つのチャンスとして「多品種にわたる材料を統合する」「汎用(はんよう)品に切り替える」といったことを事業部に依頼しやすくなる可能性があるという。「いつも使っているものは無いが、一般品のこれなら潤沢にある」などの工夫を提言・実行することで、この苦境を乗り切れると天野氏はアドバイスする。
天野氏は、中東情勢を踏まえた現状について「コロナ禍より何倍も厳しい状況にあると思います」という認識を示す。コロナ禍や、大寒波が北米を襲った際もDNPは工場の稼働を一度も止めなかったといい、「一番の誇りです」と話す。
それを実現できたのは、早期から「戦略的サプライヤーマネジメント」に取り組んできたからだ。同社は社会のライフラインや自社の収益に資する領域で「戦略製品」を定めている。QCD(品質、コスト、納期)に加えて、戦略製品の上流にあるサプライヤーのBCP対策や生産国リスク、財務状況なども評価対象としている。
さらに、サプライヤーと対話した上で、将来を見据えて共創できる企業を「戦略的パートナー」に位置付けて、製品や技術の共同開発に取り組んでいる。
こうしたサプライヤーマネジメントを実現するために、同社はITツールや調達コンサルティング企業の力を借りながら、バイヤーの経験や暗黙知をデジタル化・体系化することで、個人に依存しない調達組織と仕組みを作り上げた。
「仕組みを作った後、実際に取り組むのはバイヤーです。一番大事なのは、バイヤーのマインドセットを変えていくこと。そうすれば価値を生み出し、厳しい状況から脱却できます。さらに、調達によって世の中に貢献しているという誇りが生まれ、(組織全体が)ポジティブになり、幸せになれると考えています」(天野氏)
DNPの調達本部の取り組みは多くの企業のヒントになるかもしれない。
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