CxO Insights

なぜ三菱電機「Serendie」は立ち上がったのか データドリブンによる価値創出の狙い変革の旗手たち〜DXが描く未来像〜(1/2 ページ)

» 2025年06月23日 08時30分 公開

【注目】ITmedia デジタル戦略EXPO 2025夏 開催決定!

従業員の生成AI利用率90%超のリアル! いちばんやさしい生成AIのはじめかた

【開催期間】2025年7月9日(水)〜8月6日(水)

【視聴】無料

【視聴方法】こちらより事前登録

【概要】ディップでは、小さく生成AI導入を開始。今では全従業員のうち、月間90%超が利用する月もあるほどに浸透、新たに「AIエージェント」事業も立ち上げました。自社の実体験をもとに、“しくじりポイント”も交えながら「生成AIのいちばんやさしいはじめ方」を紹介します。

 日立製作所「Lumada」やNEC「BluStellar」など、大手各社がDXブランドや価値創造モデルを立ち上げる中、三菱電機は2024年5月にデジタル基盤「Serendie」(セレンディ)を立ち上げた。同社DXイノベーションセンターが主体となって運営しており、長年培ってきたモノづくりの強みと、データ活用による新たな価値創出を融合させる狙いがある。

 Serendieでは、従来は事業本部ごとに独立していた機器やシステムのデータを横断的に集約・分析。顧客や社会の潜在的な課題を発見し、解決策へとつなげる「循環型 デジタル・エンジニアリング」の具体的な実現手段の構築を担う。

 なぜ三菱電機は、他社に続く形でSerendieを立ち上げたのか。同社執行役員で、DXイノベーションセンターの朝日宣雄センター長に聞いた。

photo 朝日宣雄 三菱電機 執行役員 DXイノベーションセンター センター長。東京工業大学大学院情報工学専攻修了。1988年三菱電機入社。人工知能(AI)の研究開発、マルチメディア事業企画、経営企画において、主として新事業・新分野に従事。2020年 IoT・ライフソリューション新事業推進センター長として家電・住宅設備機器のIoTプラットフォームの構築を牽引。2023年に全社の事業DX推進のミッションを受け、DXイノベーションセンター長に就任

「モノ売り」から事業横断へ 変革のきっかけは?

――まずSerendieがどういうものなのかを教えてください。

 もともとは、2022年に現社長の漆間啓が「循環型 デジタル・エンジニアリング企業」を目指すという経営戦略を打ち出したのが始まりです。これは、私たちが販売した機器やシステムから集めたデータを活用し、その中から顧客の課題を見つけ出してソリューションを作り、展開していく4つの段階から成り立っています。

 私たちはもともと製造業としてモノを売ってきましたので、データを分析して困りごとを見つけ、それをハードに反映してきました。一方で、システムやソリューション事業、つまりソフトを直接的に提供することには不慣れでした。もちろん、ソフトを担う部隊も社内にはありますが、多くの場合は従来型のハードを扱うビジネスが中心でした。

 しかし、電力や鉄道など、幅広い顧客の課題認識に応えていく中で、事業本部ごとにクラウドシステムを作り、データを蓄積する取り組みを進めてきました。ただ、それらのデータは顧客のものが多く、私たち自身が十分に活用できていない部分もありました。

photo 「循環型 デジタル・エンジニアリング企業」を目指すという経営戦略を打ち出したのが始まり(三菱電機のWebサイトより)

――そこでどのような工夫をしてきたのですか。

 各事業本部が少しずつ分析し、課題を探っていたものの、従来は決まった顧客に決まった製品を販売するという枠組みが強く、事業本部を横断した取り組みはなかなか進みませんでした。

 例えばビルを例に挙げると、私たちはエスカレーターやエレベーターといった昇降機をビルシステム事業本部で扱っています。空調機や換気扇、照明といった設備はリビング・デジタルメディア事業本部が担当しています。それぞれ商流や顧客の決定タイミング、ビジネスモデルが異なるため、これまでは融合することがありませんでした。

 しかし、ビル全体の課題を総合的に考えるべきだという認識が強まり、これらを横断的にデータを共通化し、分析することで、昇降機だけでなく空調も含めた全体のマネジメントが可能になる体制を整える動きが生まれました。

 会社のガバナンスの観点からも、社会課題を起点に、関連の深いビルや家電など近い領域は「ライフビジネスエリア」と称し、BA(ビジネスエリア)制度を導入しました。社会システムや電力システム、宇宙防衛などは「インフラBA」として束ねました。一方、組織的に束ねるだけでなく、実際にデータや機能、技術を融合できなければ意味がありません。 そこで、新たにSerendieという名のもと、全社でデータ分析基盤を決めたり、Web APIをカタログ化したりして、相互に融通できる方策を整備しました。

 こうして、ビジネスエリアを超えて横断的に取り組める体制が整い、2024年5月にSerendieとして発表するに至りました。Serendieは、異なる領域の機器やシステム、サービスから集約されたデータや知見の新たな出会いを生み出すデジタル基盤です。これにより、今までにない価値を創出し、顧客や社会の課題解決に貢献していきたいと考えています。

photo 横浜アイマークプレイスの三菱電機オフィス

クラウド活用と技術進化がもたらした転機

――クラウドシステムの構築やデータ分析の取り組みは、いつ頃からどのように進化してきたのでしょうか。

 事業本部ごとにタイミングはさまざまですが、完全にパブリッククラウドを活用し、クラウドネイティブなシステムづくりを始めたのは、私が以前担当していた家電や空調向けの領域では2019年頃からです。実際に設計に着手したのもその時期でした。

 一方で、電力システムの分野では、クラウドよりもオンプレミスのツールを使った取り組みを以前から実行しており、事業本部ごとに技術の選択や進め方はバラバラでした。例えば、FA(ファクトリーオートメーション)機器のデータ活用を進めるe-F@ctoryのような活動は、まだ完全なクラウドシステムにはなっていませんが、こうした取り組み自体は約20年前から始まっています。

 その時代ごとの最先端技術を取り入れながら、スタートしていました。特に10年ほど前からはパブリッククラウドが主流となり、PaaSやSaaSなど多様なサービスが登場し、マイクロサービスによるシステム構築も一般的になりました。こうした技術革新により、従来の取り組みを大きく方向転換する必要性が生じ、2010年代後半から徐々に本格的な変化が進んできた認識です。

photo e-F@ctoryのアーキテクチャは「生産現場」「ITシステム」およびそれらを連携するための「エッジコンピューティング」の3階層に分かれている(三菱電機のWebサイトより)

――他社の同種の取り組みと比べて、Serendieの強みや特徴はどこにあるのですか。

 この活動で一番大きな課題は、やはり製造業としてハードウェアをどう扱うかという点だと思います。例えばNECさんや富士通さんは、もともとコンピュータや通信機器を中心に事業を展開されてきており、NECさんは「BluStellar」(ブルーステラ)、富士通さんは「Fujitsu Uvance」 (富士通ユーバンス)といったシステムインテグレーションを軸にしたサービスを提供しています。日立製作所さんもハードを手掛けつつ、現在はシステムインテグレーションやサービスビジネスに重きを置いていると聞いています。東芝さんも強みのある分野に集中している印象です。

 一方、三菱電機の特徴は、ファクトリーオートメーション(FA)分野のコントローラ、つまりプログラマブルコントローラ(PLC)をはじめとしたハードウェアを自社で長年、手掛かけてきた点にあります。

 私たちは「シーケンサ」という製品名で展開しており、MELSEC(メルセック)というブランドも持っています。こうしたFA機器をはじめとする幅広いハードウェアと、そこから得られるデータを活用して新たな価値を生み出す点が、当社ならではの強みだと考えています。

photo 横浜アイマークプレイスの三菱電機オフィス
       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

アイティメディアからのお知らせ

SaaS最新情報 by ITセレクトPR
あなたにおすすめの記事PR