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なぜ三菱電機「Serendie」は立ち上がったのか データドリブンによる価値創出の狙い変革の旗手たち〜DXが描く未来像〜(2/2 ページ)

» 2025年06月23日 08時30分 公開
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高シェア製品が支えるデータ活用の強み

――三菱電機の強みを、もう少し詳しくお聞かせいただけますか。

 例えば、国内の空調冷熱製品全体において、高いポジションを得ています。また、換気扇については約50%、さらに熱交換形換気扇「ロスナイ」に関しては約65%のシェアを持っています。ロスナイは外気を取り入れる際に、室内の空気と熱を交換することによって冷暖房の効率を高め、省エネルギーを実現する製品で、当社が業界をリードしてきました。

 このようにシェアの高い製品が多いことは、実証実験や新しい取り組みを進める際に顧客から声をかけていただきやすく、業界の標準づくりにも関わりやすいという強みにつながっています。また、シェアが高い分、データを集めやすい利点もあり、当社の強みを生かしたデータ活用やサービス開発がしやすい環境が整っています。

 一方で、システムインテグレーションの分野については、当社はものづくりを中心に展開してきた経緯から、現場でのシステムインテグレーションはパートナー企業に依存している部分が大きいです。日立さんのように情報システム系の技術者を多く抱え、GlobalLogic(グローバルロジック)のような企業を買収して内製化を進めている例もありますが、当社の場合はフィールドでのシステム構築や運用はパートナー企業と協力して進めていく体制が基本です。

――同じメーカーでも、扱う主力製品による他社との商流の違いも大きそうですね。

 欧米企業のように大きな変革や中抜きによる利益確保を目指すのではなく、既存の仕組みを維持しつつ、顧客に継続的なソリューションを提供することを重視しています。これは、エアコンなどの製品が壊れたときに買い替えるというサイクルが長く、例えば15年程度使い続けるケースが多いことも関係しています。

 従来は新しい機能が搭載された製品が出ても、壊れなければ買い替えが進まないため、メーカーとしては高機能モデルを多く売ることを重視してきました。

 しかし今後はDXの進展により、ソフトウェアによる機能追加やバージョンアップが可能になり、長く使われる製品でも後から新しいサービスや機能を提供できるようになります。

 例えば、エアコンの「ムーブアイ」や「エモコアイ」などのセンサー機能は、ソフトウェアのバージョンアップや後付けによる機能拡張が可能です。また、従来は高級機種だけに搭載されていた「快眠ボタン」などの機能も、今後は必要な人がオプションで追加できるような形にしていくことを目指しています。

 このように、これからは製品を作って売るだけでなく、使い続けていただく中でソフトウェアやサービスを通じて新たな価値を提供し、顧客一人一人の使い方やニーズに合わせて柔軟にアップデートできる仕組みづくりに力を入れていきたいと考えています。

photo 横浜アイマークプレイスの三菱電機オフィス

顧客データが循環する課題発見と解決の仕組み

――Serendieでは「循環型 デジタル・エンジニアリング」という言葉を掲げています。この「循環型」というのは、具体的にどういったものなのでしょうか。

 具体例を挙げますと、例えば鉄道事業者向けに提供している「鉄道LMS」というシステムがあります。これは車両の中にデータロガーを設置し、車両のさまざまな機器から200ミリ秒ごとにデータを蓄積しています。膨大なデータ量になるため、従来は十分に分析しきれなかったのですが、当社のDXイノベーションセンターのメンバーが中心となり、例えば回生電力、つまりブレーキの動作時に発生する電力を有効活用できないかという課題に取り組みました。

 ある鉄道事業者では、鉄道LMSデータの分析により、回生電力の失効で年間約4億円分もの電力が使いきれず無駄になっていることが分かりました。どこでどのように無駄が発生しているのかを時系列の細かいデータで分析すると、特定の駅周辺で繰り返し発生していることが見えてきました。こうした気付きをもとに顧客に提案し、ちょうどエネルギー価格が高騰していたタイミングも重なったことで、鉄道運行部門と電力調達部門が連携し、当社のメンバーも加わって新たなプロジェクトを始められました。

 このように、顧客が保有するデータから潜在的な課題を見つけ出し、当社がフィードバックをしながら一緒に解決策を探っていく。こうしたサイクルを比較的短期間、例えば半年ほどで実現できたことが、「循環型 デジタル・エンジニアリング」の具体的なイメージだと考えています。

――データを活用することによって、効率化や新しいサービスにつながったということでしょうか。

 そうですね。これはエアコンの事例ですが、データを取ってみると、例えば冷房・暖房・自動の各モードのうち、実際にどのモードがどれくらい使われているか、従来はなかなか分かりませんでした。実際に調べてみると、3割ほどの方が自動モードを使っていることが分かりました。

 また、夏の夜などにエアコンをどう使っているかを分析すると、快眠ボタンがついていない機種や、寒さが気になる方は、タイマーでエアコンを30分ほどで切って、暑くなったらまたつけ直すという使い方をしている方が3割ほどいらっしゃいました。

 こうしたデータをもとに、例えば「おやすみサポート」というアプリケーションを開発しました。この機能では、ユーザーごとの温度設定や起きるタイミングなどを個人に合わせて学習し、快適な睡眠環境を自動でサポートできるようにしています。

 実際に私自身も使ってみましたが、夜中に寒さや暑さで目が覚めることがなくなり、睡眠の質が大きく向上しました。データを詳しく見ていくと、ユーザーごとにエアコンの使い方や感じ方が異なることが分かり、こうした気付きをサービスや機能の改善に生かせています。

 実際の利用データをもとに顧客の行動やニーズを把握し、それを新しいサービスや製品の改善につなげることで、より快適で効率的な暮らしを実現できると考えています。

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