CxO Insights

6000万人が使う「国産ヘルスケア基盤」構築へ 富士通×ソフトバンク×SMBC社長陣の「戦略と決意」

» 2026年05月20日 12時00分 公開
[荒岡瑛一郎ITmedia]

 富士通、ソフトバンク、三井住友フィナンシャルグループ(以下、SMBCグループ)は5月19日、医療分野での業務提携を発表した。「国産ヘルスケア基盤」を構築し、健康増進や病院経営の効率化を支えることで年間約5兆円の医療費削減を目指す。

 取り組みの背景には、少子高齢化が進み、団塊ジュニア世代が高齢者になることで国民医療費が70兆〜80兆円に達する「2040年問題」がある。「われわれは(医療制度を持続させられるか否かの)分水嶺(れい)に立っている。国難ともいえる壁を打ち破る最大の鍵は、全世代の健康と活躍に他ならない」(SMBCグループの中島達執行役社長グループCEO)

 国産ヘルスケア基盤は、国内病院の約半数に当たる約4000施設への提供を目指す。個人向けヘルスケアアプリも開発し、約6000万人への展開を狙う。ソフトバンクの宮川潤一社長執行役員兼CEOは「利益というよりは、当面は投資の方が大きくなるかもしれない。『それでもやる』という思いだ」と語った。

 国内病院の半数、国民6000万人が使う可能性を秘めた国産ヘルスケア基盤の構築プロジェクトが始動した。富士通、ソフトバンク、SMBCグループの3社連合が描く、成功への戦略とは。

photo 共同記者会見に臨んだ3社トップ。左からソフトバンクの宮川潤一社長、SMBCグループの中島達社長、富士通の時田隆仁社長(編集部撮影)

国産ヘルスケア基盤構築へ 社長陣の戦略と決意

 国産ヘルスケア基盤は、国内データセンター上に構築する。「データプラットフォーム」に電子カルテなどの医療データを蓄積する。並行して「ユーザーアプリ」を開発し、個人による医療データへのアクセスや歩数など健康データとの連携を支援する。

 これから提携体制を整え、10月に事業活動を始める想定だ。医療機関、医療システム提供企業、ヘルスケアサービス事業者など業種の垣根を越えたパートナーの参画を歓迎する。国や自治体とも対話し、将来的には「全国医療情報プラットフォーム」「マイナポータル」など公的基盤との連携も視野に入れるという。

 「この提携は、民間企業であるわれわれが結集し、事業を通じて持続可能な医療の実現に貢献するという確固たる決意に基づくものだ」(中島社長)

photo 国産ヘルスケア基盤の概要(出所:宮川社長の発表資料)

富士通の国産AIを活用 時田社長「医療を取り巻く課題解決に」

 国産ヘルスケア基盤のデータプラットフォーム構築を主導するのが富士通だ。同社は、電子カルテシステム「HOPE」や医療データ活用基盤「Healthy Living Platform」などを手掛け、電子カルテでは国内有数のシェアを誇る。医療分野のナレッジや医療機関との信頼関係を、本プロジェクトに生かす構えだ。

 「医師や病院関係者から『病院間や地域間でのデータ連携の遅れ』『医療機関のIT化やDXの予算逼迫(ひっぱく)』『システム標準化の必要性』など医療を取り巻く課題を聞いている。これらの解決に貢献したい」(富士通の時田隆仁社長CEO)

 開発するデータプラットフォームは、治療・診断・処方といった仕様が異なる医療データを蓄積し、医療機関や民間事業者が安全に利用できるデータ基盤を目指す。個人の健康データも連携できるようにし、AIアプリを通して健康増進のアドバイスを提供する想定だ。

 データの提供・連携の可否は個人が判断する仕組みにて、データ主権を守る。AIは、富士通が開発した国産AI「Takane」(タカネ)を使うなど、国産にこだわるという。

 「分断されていた医療データを、標準化や健康データとの連携によって価値あるデータにし、ユーザー自身の意志や判断に基づいて流通させられるようにする。多くのステークホルダーに広がることで、一人一人に寄り添った医療サービスや健康サービスが提供され、健康寿命の延伸に寄与すると期待している」(時田社長)

photo データプラットフォームの価値(出所:時田社長の発表資料)

6000万ユーザーに展開 一体どうやって?

 健康データの取得・連携やヘルスケア情報の提供窓口となるユーザーアプリは、ソフトバンクが旗振り役となって開発する。同社グループ企業が提供するヘルスケアアプリ「HELPO」の開発ノウハウなどを活用する。

 ユーザーアプリは「『食事は糖質や揚げ物が多い』『糖尿病の病歴がある』というデータから、食事バランスの見直しをアドバイスする」などの使い方を想定。病気の症状や受診歴を基に、受診する病院の提案・予約・決済を完結させられる機能も搭載する予定だ。

 同アプリは無料で提供する。宮川社長は「ソフトバンク、SMBCグループ、富士通が持つ顧客を活用して一気に拡大させる」と説明した。ソフトバンク系列のサービス「LINE」「PayPay」「Yahoo! JAPAN」のユーザーや、SMBCグループの金融サービス「三井住友カード」「Olive」などの利用者を中心に、ユーザー数約6000万人を目指す。

 SMBCグループは、アプリの普及をけん引する役回りになる予定だ。アプリダウンロードや継続利用のインセンティブとして、各社サービスの「ポイント」を活用する案もあるという。

photo ユーザーアプリの展開先(出所:宮川社長の発表資料)

宮川社長「官民が本気で取り組む時期だと一石を投じた」

 宮川社長によると、国産ヘルスケア基盤によって重複受診や重複投薬に要したリソースを節約できるという。健康増進や生活習慣病予防なども合わせることで、医療費を年間約5兆円抑制することを掲げる。

 「医療費の抑制は難易度が高い。3社だけで課題が解決できるとは考えていない。『そろそろ官民が本気で取り組む時期だ』と一石を投じたつもりだ」(宮川社長)

 国産ヘルスケア基盤の構築に当たって、3社以外のパートナー企業との協力も模索する。本プロジェクトによって、個人、医療機関、民間企業、自治体など幅広い領域に新たな価値を提供すると宮川社長は意気込んだ。

 医療費の増大という社会課題に切り込んだ3社は、国産ヘルスケア基盤を形にして新たな価値を創出できるのか。システム構築やサービス化だけにとどまらず、成果につなげることが求められる。

photo 国産ヘルスケア基盤の構想(出所:宮川社長の発表資料)

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

アイティメディアからのお知らせ

SaaS最新情報 by ITセレクトPR
あなたにおすすめの記事PR