「客の金庫から現金を窃盗」 前代未聞の事故が起きても、なぜ三菱UFJは「貸金庫業」を頑なに続けるのか(4/4 ページ)

» 2026年05月22日 05時00分 公開
[大関暁夫ITmedia]
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廃止する地銀、不祥事後も維持を明言する三菱UFJ

 貸金庫サービスは、1契約につき年間数万円の固定手数料収入のみで、「何を保管させられているのか分からない」というリスクをはらんでいます

 そもそも、規制時代に数少ない手数料ビジネスとして生まれたものです。現在のようにM&Aや業務あっせん手数料など、大きな手数料が稼げるビジネスが増えた時代に継続させる必要があるのか、疑問を持たれても不思議ではありません。

 不祥事を受けて管理コストを上昇せざるを得ない状況も考えれば、サービスの全面廃止に動いてもおかしくないでしょう。

 実際に、地方銀行の西京銀行、北國銀行、静岡中央銀行、佐賀共栄銀行などではサービスの廃止を発表しています。また、横浜銀行や神奈川銀行では新規の受付を終了するなど業務縮小の動きがみられています。

 地方銀行が貸金庫サービスの継続に消極姿勢である一方で、事件の当事者である三菱UFJ銀行は発覚から約半年後の段階で、半沢淳一頭取(当時)自ら「災害対策や安全対策を目的に貴重品を安全に保管したいという声が寄せられており、ニーズが相応にあることから、貸金庫ビジネスはセキュリティを強化したうえで継続する」と明言しています。貸金庫廃止に向かう地銀と、貸金庫維持に意欲を見せる当事者の三菱UFJ。この対応の違いの裏にあるものは何なのでしょう。

 半沢氏が言うニーズとは、個人富裕層からのニーズを指していると思われます。そもそも貸金庫への保管を必要とするような、高価な貴金属や金塊、権利書、有価証券、契約書類などをいくつも所有する人は大半が富裕層で、銀行にとって大口取引先であることも多いのです。銀行が大切にしたい富裕層のニーズがあるならば、貸金庫はサービスとして残すことは十分理に適うとなるわけです。

 また昨今のメガバンクにおける個人戦略は、運営コストがかかって収益性の低いマス層を軽視して店舗網を縮小しつつ、相談業務を中心として各種手数料収入などが見込まれる富裕層に狙いを定める方向へシフトしています。その戦略下にあって貸金庫は、目先の収益目的ではなく「メガバンクに貸金庫を持つ」というブランド力で富裕層をつなぎとめ、あるいは新規に富裕層を抱え込むためのツールとして有効である、と考えているのでしょう。

 貸金庫ビジネスにおけるリスクの顕在化を受けてなお、“盲腸的業務”と言える貸金庫ビジネスの継続に意欲をみせる当事者の三菱UFJ。一方、早々にサービス終了を打ち出した地銀各行と、新規取引終了という形で静観姿勢ともとれる姿勢を打ち出した首都圏地銀。三者三様の対応は興味深く映ります。

 富裕層取引を広げたいメガバンク、揺るがぬ地元富裕層取引への自信を示す地方地銀、メガバンクの富裕層攻勢に対する守りが気になる首都圏地銀。それぞれの個人戦略の立ち位置の違いが、透けて見えるのではないでしょうか。

著者プロフィール・大関暁夫(おおぜきあけお)

株式会社スタジオ02 代表取締役

横浜銀行に入り現場および現場指導の他、新聞記者経験もある異色の銀行マンとして活躍。全銀協出向時はいわゆるMOF担として、現メガバンクトップなどと行動を共にして政官界との調整役を務めた。銀行では企画、営業企画部門を歴任し、06年支店長職をひと区切りとして円満退社した。その後は上場ベンチャー企業役員などとして活躍。現在は金融機関、上場企業、ベンチャー企業のアドバイザリーをする傍ら、出身の有名超進学校人脈や銀行時代の官民有力人脈を駆使した情報通企業アナリストとして、メディア執筆者やコメンテーターを務めている。


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