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「ナーチャリングは限界」に “購買グループ”の「予兆」を掴む、具体的な方法【BtoBマーケの新常識】庭山一郎氏に聞く(前編)(2/2 ページ)

» 2026年05月26日 06時00分 公開
[野本纏花ITmedia]
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なぜリードナーチャリングは不可能だと言えるのか

 GTMシンギュラリティの背景には、Demand Waterfall Modelの限界に加えて「ナーチャリング」という考え方そのものの限界もあるという。

 日本語では「育成」と訳されるナーチャリングだが、BtoBマーケティングでは長年「適切なタイミングで適切なコンテンツを届ければ、顧客をナーチャリングできる」と考えられてきた。

 しかし「ナーチャリングなんてできるはずがない」と庭山氏は疑問を呈する。なぜなら、BtoBの場合、売り手よりも買い手のほうが、知識量が多くなるからだ。

 例えば「自家用車を購入する」というBtoCのケースを考えてみてほしい。一般的な車の購入頻度は約6年に1度だ。よほどの車好きでない限り、買い手である消費者が車の情報収集をするのも、営業担当者と商談するのも、6年に1回きりしかない。

 これに対し、売り手の営業担当者はトップセールスになると年間100台は販売する。仮にクロージングレートが30%だとすると、6年で2000回の商談をしている計算になる。つまり、売り手と買い手で、経験する場数に圧倒的な開きが出るBtoCでは、必然的に「売り手の知識量>買い手の知識量」となるわけだ。

 他方、金属や樹脂などを加工する工作機械を製造・販売しているBtoBのケースではどうか。買い手である工作機械の技術者は、日々、工作機械を使って仕事をしている。

 これに対し、自社の商品とはいえ、その工作機械を設計したわけでもなければ、日常的に使用しているわけでもない売り手の営業担当者が、顧客に知識量で勝てるはずがない。要するに、BtoBでは「売り手の知識量<買い手の知識量」となる

 「知識の乏しい売り手が、膨大な知識を持った買い手を育成するなんて、無理な話。あたかも田んぼで稲を育てるように『ナーチャリングすれば何カ月後には収穫できます』と皮算用していたけれど、そんなことはできっこないと実証された」と庭山氏は語る。

シンフォニーマーケティング 代表取締役 庭山一郎氏。2026年6月12日『この1冊ですべてわかる BtoBマーケティングの基本』(日本実業出版社)を出版予定(編集部撮影)

「客が興味を持った瞬間」を見逃すな

 「MQLを追跡するのは無駄」「ナーチャリングなんて幻想」となると、これからのBtoBマーケティングの役割は、どうなっていくのか。

 その解として庭山氏は「Signal-Based Marketing」を挙げた。

 Signal-Based Marketingとは、Buying Groupが情報収集のタイミングで発する“シグナル(リアルタイムな行動や状態の変化)”を見逃さずに発見し、アプローチにつなげる手法のことである。

 かつて、企業が選定に必要な情報収集をするには、営業担当者と接触する以外に方法がなかった。複数社の営業担当者を呼んでは、カタログを見ながらセールストークを聞き、相見積もりを取りながら時間をかけて比較検討する。売り手として見れば、ビジネスチャンスの扉が開いている時間は、約6カ月と長かった。

 それがいまはどうか。情報収集チャネルの多様化に加え、AIによる探索コストの低下やSlackなどのコミュニケーションツールによる情報共有の高速化によって、検討期間が2カ月ほどにまで短縮している。

 言い換えれば、以前なら顧客と初めて接触したところから関係構築をすれば良かったが、いまでは顧客と接点を持てた時点で、すでに検討フェーズの終盤に差し掛かっているケースも珍しくないということだ。

 「だからこそ、顧客が情報収集を始めたときに発する微弱なシグナルを見逃さないよう、レーダー網を張り巡らしておかなければならない」と庭山氏は強調する。

 「Signal-Based Marketing」の具体的な手法の一例として、動画が紹介された。

 動画と言ってもYouTubeではダメだ。シグナルをキャッチするには、MA(マーケティングオートメーション)ツールと連携して“誰がどこからアクセスして、どこまで視聴したのか”を可視化できる動画プラットフォームを選択する必要がある。

 “惹き”になるショート動画と、より詳細な情報を詰め込んだロング動画を用意しておき、ショート動画からロング動画へと導線を張っておく。そしてメールでショート動画のリンクを送る。

 もしショート動画の視聴途中で離脱していたら、その人は明らかに興味・関心がない。だが、ショート動画を見た後にロング動画を最後まで視聴していたら、高い興味・関心を持っていることが分かる。

 あるいは、ロング動画を見た人が本気で検討を進めたいと思ったら、社内でインフルエンサーとなって、ロング動画のリンクを拡散することも起こり得る。その場合、個人として特定できるのは、インフルエンサーとなった最初の1人だけだが、“同じグローバルIPだが、ブラウザ情報はバラバラ”のアクセスが複数あると分かれば「Buying Groupが動き出した!」と推察できる。

 「BtoBマーケティングでは、もはやPVやインプレッションの量だけを追うことに、何の意味もない。買う気がない人をいくら集めても仕方がないからだ。来てほしい人が来てくれたタイミングを瞬時に察知して、すぐに営業が動ける環境づくりをしておくことが重要だ」(庭山氏)

後編に続く

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