この記事は、書籍『家電ビジネス』(安蔵靖志/クロスメディア・パブリッシング)に、編集を加えて転載したものです。なお、文中の内容・肩書などは全て出版当時のものです。
日本の電機メーカー各社が、中国・韓国勢との激しい価格競争や事業構造の転換を理由に、次々とB2C(個人向け家電)事業から撤退、あるいは縮小しています。ソニーはエンターテインメントと金融の会社へと変貌を遂げ、パナソニックは車載電池やサプライチェーン管理などのB2B領域に重心を移しつつあります。
そんな中で、三菱電機は非常にユニークな立ち位置を堅持しています。同社は人工衛星、発電設備、エレベーター、ファクトリーオートメーション(FA)といった巨大インフラ事業を中核に据えながらも、冷蔵庫や炊飯器、エアコンといった家電を現在も重要な主軸事業の一つとして位置付け続けているのです。なぜ三菱電機は家電にこだわり続けるのか、そのビジネスモデルと戦略を解説します。
三菱電機の歴史は、1921年に三菱造船(現・三菱重工業)の電機製作所が独立したことから始まります。当初から発電機や電動機といった「重電(重工業系電気機器)」の技術に強みを持っていました。
このインフラ・産業向けの高度な技術を家庭用製品に転用する技術の垂直展開こそが、三菱電機の家電の源泉です。例えば、同社の象徴的な製品であるエアコン「霧ヶ峰」シリーズに搭載された、人の体温を感知する「ムーブアイ」などのセンサー技術は、産業用ロボットや高度な計測機器で培われた知見がベースになっています。
ソニーやパナソニックと三菱電機の決定的な違いは、その市場戦術にあります。三菱電機は、テレビやスマートフォンのように流行の移り変わりが激しく、価格競争に陥りやすい製品からは早期に距離をおきました。一方で、生活に密着し、かつ技術力の差がユーザーに伝わりやすい「白物家電」にリソースを集中させました。
炭を削り出した内釜という、量産には不向きだが圧倒的な食味を追求する炊飯器の「本炭釜」シリーズや、解凍の手間を省く独自の温度制御技術「切れちゃう瞬冷凍」を採用する冷蔵庫などは、「高くてもいいものが欲しい」という高付加価値層を狙った“ニッチトップ”戦略の象徴です。
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