日本でも冒頭の投稿が話題となったことで、労働契約法第5条に規定される「安全配慮義務」が改めてクローズアップされました。台風で外が大雨と強風で危険な状態であるにもかかわらず出社を強要し、通勤途上で従業員がケガなどをした場合、企業は安全配慮義務違反として損害賠償義務を負うこともあり得るという指摘です。
また、上司が出社を「強要」した場合はハラスメントと見なされ、企業全体のコンプライアンス問題へと発展する可能性もある、と指摘する識者もいました。
しかし「組織の論理思考を停止する」という同質病の核心は「各自の判断で」という責任回避ワードを使えば、なんとでもなってしまうのです。
いずれにせよ、当初は批判された公共交通機関の「計画運休」やイベントなどの中止も、やむを得ない安全対策として社会的に定着しつつある今、会社も在宅勤務を推奨した方が経営上のリスク回避としても、従業員からの信頼を守る意味でも賢明な判断です。
そもそも、台風の日に「とりあえず出社する」ことで、一体どれほどの成果が上がっているというのでしょうか。いつもより早く起きて運行情報をにらみつけ、暴風雨に耐えながらオフィスにたどり着く。しかし、取引先は在宅勤務で連絡がつかず、外の風の音が激しくなるたびに「帰りの電車は動くだろうか」と気もそぞろで、スマートフォンの運行情報ばかりを更新する──。
こんな状況で、まともなパフォーマンスを発揮できるはずがありません。無理に出社させたところで、待っているのは著しい生産性の低下や従業員の心身の疲弊、上司への不信感です。
逆に、パフォーマンスが発揮できないことを、同質病を脱出する好機と捉えれば、それまでのバカバカしい前例や、同調圧力の崩壊が期待できます。マネジャー層が「今日は全員在宅。出社は禁止!」とたった一言、退路を断つメッセージを発信するだけでいい。それが、職場全体を覆う重苦しい空気を一気に変える、何よりの特効薬になります。
それは同時に、あなたが「同質病の呪縛」から自らを解放する瞬間でもあります。仮にトップから反対されたら、部下の命を守る上司を演じきってみる。それをみた部下は必ずやあなたへの信頼を高め「この人のために頑張ろう」という強いエンゲージメント、あるいは「本当の意味での自律的な組織」へと育っていくはずです。
私がこれまで話を聴いてきた1000人以上のビジネスパーソンの中には、キャリアの苦難に遭遇した時「あの人ならどうするだろう」と思い浮かべる「心の上司」を持っている人がたくさんいました。会社とはいずれ縁が切れます。しかし、自分が知らないところで、誰かの役に立つ。こんな素敵な経験ができたら、上司冥利(みょうり)に尽きると思いませんか?
会社を変えることはできなくとも、半径3メートル世界なら変えられます。まずは、あなたの半径3メートル=チームを変えてください。
東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。千葉大学教育学部を卒業後、全日本空輸に入社。気象予報士としてテレビ朝日系「ニュースステーション」などに出演。その後、東京大学大学院医学系研究科に進学し、現在に至る。
研究テーマは「人の働き方は環境がつくる」。フィールドワークとして600人超のビジネスマンをインタビュー。著書に『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアシリーズ)など。近著は『残念な職場 53の研究が明かすヤバい真実』(PHP新書)、『面倒くさい女たち』(中公新書ラクレ)、『他人の足を引っぱる男たち』(日経プレミアシリーズ)、『定年後からの孤独入門』(SB新書)、『コロナショックと昭和おじさん社会』(日経プレミアシリーズ)『THE HOPE 50歳はどこへ消えた? 半径3メートルの幸福論』(プレジデント社)、『40歳で何者にもなれなかったぼくらはどう生きるか - 中年以降のキャリア論 -』(ワニブックスPLUS新書)、『働かないニッポン』 (日経プレミアシリーズ) 、『伝えてスッキリ! 魔法の言葉』(きずな出版)など。
新刊『「老害」と呼ばれたくない私たち 大人が尊重されない時代のミドル社員の新しい働き方』(日経BP 日本経済新聞出版)発売中。
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