キオクシアの影に隠れがちだが、テレビ事業の復活も劇的だ。東芝映像ソリューション(現TVS REGZA)は2018年、中国Hisenseに売却された。東芝時代のテレビ事業は万年赤字で、リストラと縮小を繰り返す“お荷物”だった。
ところがHisense傘下に入ると、10年ぶりの黒字化を実現する。さらに2022年には、国内の薄型テレビのシェアで、東芝時代を含めて初の年間首位に立った。
※参照:脱東芝の「レグザ」、国内トップシェア争いまでの復活劇
勝因は明確だ。Hisenseのグローバル調達網でパネルや部材のコストを下げる一方、画質エンジンや録画機能など、東芝伝来の技術的こだわりは現場に残したことだ。
中国資本になって品質が落ちるという通俗的イメージの逆を行き「日本の商品企画×中国のコスト構造」のハイブリッドが成立した事例である。
総合メーカー東芝ライフスタイルは2016年に中国・美的集団へ売却された。売却前は数十億円規模の営業赤字を垂れ流していたが、Hisenseと同様、美的集団のバリューチェーンとの統合で2018年度に黒字転換に至った。
東芝ブランドは維持され、エアコン・洗濯機・電子レンジで国内シェアを伸ばした。美的集団はその後、世界最大級の白物家電メーカーに成長している。
メモリ、テレビ、白物家電。事業特性が全く異なる3つの旧東芝事業が、異なる外資オーナーの下で再生した。
ここまでそろうと、問題は事業側ではなく「親」の側にあったと考えるのが自然だろう。
共通する構造要因はいずれも技術面ではなく経営面に終始する。
まず、東芝本体の中では、メモリの数千億円規模の設備投資も、テレビの価格競争への対応も、原発・インフラ・半導体・家電などの事業が予算を奪い合い、社内調整の中で決めていた。投資のタイミングが業界の競争スピードに追いつかず、どの事業も「勝ち切るための投資」を打てない。東芝を出た瞬間、各事業は専業オーナーの下で必要な投資をフルスピードで受けられるようになった。事業が多角化した企業の株式評価が割り引かれる「コングロマリット・ディスカウント」という現象も、おおむねこの理由で発生する。
また、そもそも技術とブランドは一流だったが、売り方に問題があったという、身も蓋(ふた)もない事実も指摘するべきだろう。
今やどのデータセンターも使っているNANDフラッシュというメモリ技術は、実は、東芝が世界で最初に発明した技術だ。レグザの画作りも東芝の省エネ空調も、世界でトップクラスの技術だった。
つまり外資企業が何らかの“魔法”をかけたのではなく、経営が技術の足を引っ張る構造が解消されたという表現の方が適切、といっても過言ではない。
東芝本体は2023年、日本産業パートナーズ(JIP)連合の2兆円TOBで非公開化された。
2025年3月期に純損益は黒字転換し、再上場は最短で2028年度と一部では報道されるが、改革はなお道半ばだ。
皮肉にも、東芝再建の借入返済の原資には、手放したはずのキオクシア株の売却益が充てられてきた。
日本では長らく、事業売却は「敗北」であり、外資への売却は「魂を売る行為」とみなされてきた。だが、旧東芝グループの8年間が示すのは逆の教訓ではないか。
なぜ「東芝を出た会社」ばかりが外資の傘下で大化けするのか。それは、もともと一流だった技術とブランドが、ようやく価値に変換され始めたからだ。
キオクシアの業績が高まれば基本給やボーナス、人材としての市場価値はいずれも向上する。外資に売られることは従業員からしても、必ずしも不幸であることを意味しない。
そして、優れた技術を抱えたまま資本配分に失敗している日本の大企業は、東芝以外にもまだあると考える方が自然だろう。有望な子会社を抱え込んだまま親会社ごと沈んでいくとすれば、それは日本だけでなく世界にとっての損失である。
次の「キオクシア」は、今もどこかの大企業にいるのかもしれない。
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