セルフ給油、実はスタッフが手動で許可していた!? コスモ石油の「AI監視」は消えゆくガソリンスタンドを救うか(2/3 ページ)

» 2026年06月17日 07時00分 公開
[濱川太一ITmedia]

需要減少と人手不足 ガソリンスタンドが抱える二重苦

 開発の出発点には「需要減少」と「人手不足」があったとコスモ石油マーケティング 取締役執行役員の藤本一臣氏は話す。

 少子高齢化や若者の車離れ、燃費向上、EV普及などを背景に、石油需要は長期的に減少傾向にある。SSの運営現場では、人材確保の難しさや事業承継の問題も課題となっている。

 経済産業省・資源エネルギー庁によると、全国のSSの数は1994年度末の約6万カ所をピークに減り続け、2024年度末には約2万7000カ所と、この30年で半分以下になった(※)。特に過疎地域では、後継者不足や設備更新の負担を理由に閉鎖に追い込まれるケースも少なくない。

※参照:資源エネルギー庁「揮発油販売業者数及び給油所数の推移」(登録ベース)

photo04 揮発油販売業者数と給油所数の推移:2024年実績(出所:ELEMENTSのプレスリリース)

 業界特有の課題もあった。1998年にセルフ式SSが解禁されると、各社は積極的な出店を進めた。その結果、販売数量を巡る競争が激化し、SSの収益環境は厳しさを増した。

 「出店競争によるマージン低下などもあり、経営が苦しくなった面があります。石油需要の先細りも指摘される中で、採用面で苦労している事業者は少なくありません」(藤本氏)

 地域のエネルギー供給を支えるインフラとして全国にネットワークを持つ同社にとって、SS網をどう維持していくかは喫緊の課題だった。

法改正、生成AIの進歩も追い風に

 そうした中で着目したのが、セルフ式SSにおける給油の監視業務だった。資源エネルギー庁の仲介による企業間マッチングがきっかけとなり、2018年からELEMENTSとの共同開発がスタートした。

 ELEMENTSが手掛ける生体認証サービスでは、画像認識AI技術を活用していた。この技術をSSの給油監視にも応用できるのではないかと考えた。同社の長谷川敬起社長は「AI技術は当社が担う一方、SS運営の知見はコスモ石油の協力が不可欠だった」と振り返る。

photo03 ELEMENTS 代表取締役社長 長谷川敬起氏(編集部撮影)

 一方で、画像認識技術があるからといって、すぐに実用化できたわけではない。

 セルフ式SSでスタッフが安全を確認した上で給油許可を出すことは、消防法で義務付けられていた。そのためAIによる自動許可を実現するためには、制度面の整理も必要だった。

 消防庁は2022年度から、セルフ式SSにおけるAI給油監視支援について検討を進めており、両社も実証実験を重ねながら、システムの安全性を検証してきた。

 その結果、2025年3月にはセルフ式SSにおける給油許可の運用が見直され、一定の安全対策を満たしたシステムであれば、AIによる給油許可が認められるようになった。

 開発の過程では、安全性と運用性をいかに両立させるかに腐心したという。

 「安全を重視するほどアラートは増えますが、それではスタッフが頻繁に確認しなければならず、生産性向上につながりません。本当に確認が必要なケースだけを検知するために、精度の向上を追求してきました」(長谷川氏)

 開発初期には火気や複数人の検知精度に課題があったというが、実証実験を通じて改良を重ねた。

 近年は、LVLM(大規模視覚言語モデル)など生成AI関連技術の進歩も追い風となり、状況認識の精度向上につながったという。

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