日常業務で「効率と正確性」が求められる現場の社員に、いきなり「今日からイノベーションを起こしてください」と言っても、戸惑いが生じるだろう。そこで、プロジェクトチームが導き出したコンセプトが「仮説」だった。「まずは仮でやってみる」ことを通じて、新たな気付きや発見につなげるという考え方だ。
「いきなり高い目標を掲げるのは難しくても『仮の設定』や『仮の設置』ならハードルは一気に下がります。『仮』なんだから、失敗してもいつでもやめればいい。最初の一歩を踏み出すための場として、この場所を“KASETZ”と名付けました」と、プロジェクトメンバーである同社デジタルイノベーションラボの佐藤適斎さんは説明する。
仮説というコンセプトを基に「普段の仕事から少し離れ、役職を捨てた『仮の姿』で参加する」「変なアイデアでも、間違ってもいい。いつでもやめていい」「職場のルールや上下関係は一切持ち込まない」といったKASETZの世界観を作り上げていった。
また、プロジェクトの初期に実施したのが、メンバーそれぞれの「仮のプロフィール」を作ることだった。業務スキルではなく、個人の趣味や特長、隠れた個性に着目し、一人一人の個性を可視化する「仮設定資料集」の作成だ。
現在では、そのプロフィールをゲームカセット型デバイスに保存し、専用の機器に差し込むことでモニターに表示できる「KASETZシステム」へと発展している。「自分にはマルチクリエイターな側面がある」といった、業務では見えにくかった個性を互いに再発見するユニークな装置だ。
現時点ではプロジェクトメンバーのカセットのみだが、今後は、必要な情報を入力すれば、自分のカセットを作れる仕組みを導入し、メンバーを拡大していく方針だという。
KASETZでは、すでにユニークな事例が次々と生まれている。
その一つが、オリジナルの“おみくじ”機械まで製作した「失敗みくじ」だ。社長をはじめとする経営層や役職者から過去の失敗談を募り、それらをおみくじに記載して引けるようにした。
「社長が真っ先に書いてくれて、他の役職者にも促してくれました。上司の失敗を知ることで、現場のメンバーが『失敗しても大丈夫なんだ。自分たちも恐れずにチャレンジしよう』と思えるマインドセットの変化が生まれています」(島崎さん)
現場の声から生まれたアイデアもある。生産ラインで働くベテランの社員たちが「何もないところでつまずいて転んでしまう」とこぼした一言から生まれた「もも上げマシーン」だ。
スクワットなどの運動を強制されても気が乗らないため、ゲーム形式で楽しく運動できる仕組みを開発。モニターの指示に合わせて“もも上げ”をすると、カメラが足を上げた回数をカウントし、目標を達成すると自動でカプセルトイからご褒美が出てくる。
ほかにも、カッターの達人と呼ばれる社員がKASETZのゴム印を彫り、3Dプリンターを得意とする社員が持ち手を作ってオリジナルのハンコが完成するなど、組織を横断した合作も生まれているという。
「作っているものは全く業務に関係ありませんが、これによって『業務に縛られず自由でいい』というメッセージを発信できています。また、個性を掛け合わせた取り組みが、ゆくゆくは製品アイデアにつながるかもしれない。大きな可能性を感じています」(島崎さん)
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