「利益だけが目的なら、“ものづくり”じゃなくていい」 製造業がつまらなくなる“鉄板パターン”(1/3 ページ)

» 2026年06月15日 07時00分 公開
[中根ほづ美ITmedia]

本稿は、ものづくりに携わる人々の誇りを高め、製造業の価値や働く環境を見直すことを目的に活動するFactory Pride Association(静岡県掛川市)が5月29日に主催した「Factory Pride Summit 2026 」を取材したもの。


 クライアントからの終わりの見えないコストダウン要求、極限までの効率化追求、そして深刻な人手不足──。日本の製造業は、多くの課題に直面している。資本市場からPBR(株価純資産倍率)やROE(自己資本利益率)の向上が厳しく求められるようになり、企業統治の在り方も見直されている。

 短期的な経済合理性が最優先される中、現場では何が起きているのか。マニュアル化が徹底され、作業が効率化された一方で、働く人々から「自ら判断する機会」や「ものづくりの楽しさ」が奪われてはいないだろうか。

 もし、高いPBRやROEを追求することだけが経営の「正解」であるなら、製造業のような重い設備投資や長期的な研究開発を伴う事業を選ぶ理由は何なのだろうか。合理性だけを突き詰めた先には「そもそもなぜ、製造業はリスクを負ってまでものづくりを続けるのか?」という問いが待ち受けている。

 埼玉大学大学院 人文社会科学研究科の教授であり、経営学者の宇田川元一氏は、これからの製造業を考える上で必要なのは、経営数値やロジックで語られる「経営のA面」だけではないと語る。経営者自身がどんな風景を見て、どんな悔しさや楽しさを味わってきたのか。そうした情熱や葛藤、独自の問いといった「経営のB面」、すなわち「経営者の哲学」が、企業がユニークな個性を生み出す原動力になるのではないかと指摘する。

 静岡県掛川市で板金加工事業を展開するコプレックの社長でありFactory Pride Association代表理事の小林永典氏と、大阪府八尾市でインテリア・DIY用品の製造販売を手掛ける友安製作所 社長の友安啓則氏、そして宇田川教授の鼎談を通じて、日本の製造業が抱える課題と、未来を切り拓くための「哲学」をひもとく。

photo01 「製造業経営者に哲学は必要か ─ 誇りを育てる思想と実践」をテーマに語り合った(編集部撮影、以下同)

効率化が進むほど「人ならではの判断」が失われる

宇田川教授 私は経営を「A面」と「B面」で考えることがあります。A面が「何をどうやって成功させたか」という論理の世界だとすれば、B面は経営者がその時どんな風景を見て、どんな人々の声に応答しようとしたかという「哲学」の世界です。

 成功している企業を見ると、ついA面の理屈で理解したくなりますが、今日は小林さんと友安さんがどんな風景を見て、どんな思いを経て今に至るのか、そのB面について聞きたいです。

小林社長 コプレックは過去に、特定の業界の量産型部品が売り上げの多くを占めていた時代がありました。振り返るとこの頃の経験が、現在の「工場で働く人々の誇りを醸成する」という活動に大きく影響しています。

 当時は毎年の厳しいコストダウン要求に応え、ミスが一切許されないような、極限のプレッシャーの中で品質管理を行う環境でした。もちろん、製造業にとって品質管理は非常に重要です。しかし、コストや効率といった指標ばかりが重視される中で、働く人が人として尊重されている実感を持ちにくい場面もありました。

 地方の中小企業にとって、社員は近所の人や友人の親など、顔の見える身近な存在です。彼らが大きなプレッシャーを抱えながら働く姿を見て、悲しみや悔しさを感じていました。

 極限までの効率重視を美徳とする価値観の先に何があるのか――。この原体験に対する問いが、製造業の働き方を考える現在の活動につながっています。

宇田川教授 ものづくりにおいて、人間的なバラツキを排除して均一化することが望ましいという考え方が、結果として働く人を人間として扱わなくなる構造を生んでいたのですね。

小林社長 まさにそうです。仕組み化やマニュアル化を極限まで進めることは、現場から「判断」を奪い、人間性を排除することでもあります。「個々の判断が不要で、誰が作業しても同じ結果を出せる」のは、確かに一つの理想的な経営の在り方かもしれません。でも、人間の判断を尊重する経営も存在するはずだと、私は思っています。

photo02 Factory Pride Association 代表理事/コプレック 代表取締役社長の小林永典氏
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