この“レバレッジのわな”がむき出しになったのが、ビットコインを買い集めるメタプラネットだ。
同社を巡っては、同社の算出していた「mNAV」(market NAV)という指標が注目された。mNAVは「時価総額+総負債」を、保有ビットコインの時価評価額で割った倍率で、1倍を下回ると同社株式がビットコイン現物より割安に取引されている状態を意味する。
ところが、そのプレミアムはあっけなく蒸発した。mNAVは2024年6月に約8倍を付けた後、2025年10月には初めて1倍を割り込み0.88倍まで低下※3。2026年5月にも0.92〜0.93倍と、再び1倍割れの水準をさまよった。
※3:日経新聞電子版「ビットコイン投資戦略に暗雲 メタプラの時価総額、保有価値下回る」
株価は高値から90%以上も下落した。ビットコインという激しく上下する資産を、増資という形でレバレッジをかけながら買い増す。この構造は相場が上がる間は「資産価値×プレミアム」の二段ロケットで株価を押し上げるが、いったん信認が揺らげばプレミアムが剥落し、原資産の下落も重なって、NAVも株価も同時にしぼむ一連の流れを分かりやすく伝えてくれる。
同じビットコイン戦略でも、米Strategy(旧MicroStrategy)は優先株などを使った多層的な調達力を「プレミアム」として評価され、mNAVは1倍超を記録した。明暗を分けたのは資産の中身ではなく「市場の信認」という、いつでも消え得る無形の何かだった。
NAVとは、つまるところ期待の別名であり、期待は前提が崩れれば一夜にして剥がれ落ちる。
もちろん、孫氏のSBGと、ビットコイン投資会社のメタプラネットを同列に語るのは乱暴だ。SBGはArm Holdingsや国内通信という安定資産を持ち、LTVも17%と規律的で、メタプラネットのようにビットコイン一本に賭けているわけではない。
それでも、骨格は驚くほど似ている。値動きの大きい資産(一方はAI企業群、もう一方はビットコイン)を借入や資本市場からの調達で買い増し、その正味価値(NAV)の大きさを企業価値の根拠として市場に訴える。
市場がその物語を信じればプレミアムが付き、疑えばディスカウントが付く。AIブームが続く限りSBGのNAVは輝くが、もし「AIバブル」の調整が本格化すれば、非上場資産の評価は下がり、レバレッジが毀損を増幅させる。
孫氏のNAV論は、投資会社を損益で測ることの限界を突いた、正当な問題提起である。SBGの株価が保有資産より割安であるという指摘自体は、事実に基づいている。その意味で、NAVは無視してよい指標では決してない。
だが、NAVを「これこそ本当の企業価値だ」とうのみにするのは危うい。
NAVは、企業価値を考える出発点ではあっても、結論ではない。
大きなNAVの裏に、どれだけのレバレッジと、どれだけ崩れやすい資産評価が潜んでいるか。そこまで分解して初めて、SBGが本当に割安なのか、それとも市場が正しくリスクを織り込んだ結果なのかが見えてくる。
NAVという数字の華やかさの下には、いつでも逆回転しうる、てこの原理が働いていることを忘れないようにしたい。
ソフトバンクG、日本最高益5兆円突破 OpenAI投資益6兆円超えも「一本足打法ではない」 その根拠は?
ソフトバンクG、日本最高益5兆円突破 OpenAI投資益6兆円超えも「一本足打法ではない」 その根拠は?
「今日言うつもりはなかったが……」 孫正義氏が明かした「ロボット自動量産工場」の実態
孫正義を37年“独占取材”した作家が知る実像 「1000年の歴史に名を残す人」
孫正義の「AI革命構想」と経営者へのメッセージ 日本企業に“最後のチャンス”Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR注目記事ランキング